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第9話

やりやすくはなったが、一緒の登下校を続けなければ「別れたのか?」などとまた面倒なことになりそうだ。 まあ元々家も近所だから回り道が必要なわけでもなく、翠とは気の合う友達だし話も合って楽しい。 なによりあおたんが共通の話題になるから、中学と高校に別れてしまった今、翠からの情報はありがたかった。 「最近、蒼が少し元気がないのよねー」 なにぃ!? 「原因は?」 「それが、聞いても言わないのよ。別に、とかそっけなくて。お年頃かしらん。ふふ、もしかしたら恋の悩みだったりして」 なにぃ・・・なにぃ・・・いよいよ来てしまったか・・・。 「今度、龍ちゃん聞いてやってよ。恋愛相談なんてかえって家族にはしにくかったりするでしょ?」 「う・・・聞くのはいいけど、相談に乗れるかどうか。何しろ俺がこんなだからな」 「龍ちゃんだって女の子のこと好きになったことぐらいあるでしょ?」 「・・・ないな」 だって、ずっとあおたん一筋だったんだから。 天使は好きになったことあるけど、そんなの誰にも参考にならないだろ。 「へえ、そうなんだ。龍ちゃん、奥手なんだね」 いや、どっちかというと変態に近いのかもしれない。いやいや、俺の話はいいんだ。 「まあ、一度何か悩みがあるのか聞いてみるよ」 そんなことを話しながら帰ってくると、道場の入口の階段にあおたんがぼうっと呆けて座っていた。 「蒼、ただいま」 ちらっとこちらを見たあおたんは、ちっさな声でおかえりといった。 !?どうしたんだ?いつもとあまりに違う態度にびっくりする。確かにこれは何かに悩んでいて、しかも重症なのかもしれない。 俺はあおたんの頭に手を乗せ、 「部屋に来るか?」 と聞いた。 「うん」 またまた小さな声で返事をしたあおたんは立ち上がる。翠は 「じゃあ、先に帰ってるね」 と踵を返しながら、俺の方を向いて『頼んだわよ』というようにウィンクしてきた。 了解、了解。俺も頷いて返事をする。 道場の奥に並んで建っている家の玄関を入るときも、二階の俺の部屋に入る時も、あおたんは静かなものだった。 俺はだんだん心配になってきた。 「今日は随分おとなしいな。どうした?具合でも悪いか?」 「具合は・・・悪くないよ」 俺の勉強机の椅子に腰かけ、足を子供のようにぶらんぶらんさせながら、あおたんは言った。 「ねえ、龍ちゃん。高校の空手部って練習厳しい?」 そんなことを聞いてきたけど、多分ほんとは違うことが言いたいのだと思う。時々横目でチラッチラッとこっちを見てくるのが証拠だ。 あおたんはいつも天真爛漫で真正面からやって来る。 これは、いよいよ、その時が来てしまったのかもしれない。 「何か悩み事か?聞くぞ?」 「悩み事・・・・・。悩み事なのかな・・・でも・・・」 「蒼のことだから、イジメってわけじゃないよな、きっと」 あおたんの表情を窺うが、違う違うというように首を横に振る。 「翠も心配していたぞ。仲のいい姉ちゃんにも話せないこと・・・やっぱり恋の悩みか?」 あおたんがきゅうーっとそのかわいい眉を寄せて、俺を見上げてきた。 来る。 俺は来たるべき衝撃に備えて、丹田(たんでん)に力を込めた。

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