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第10話
「龍ちゃん。・・・勉強教えてくれない?」
へ?
俺から何かがぷしゅうーと音をたてて抜けた。
「勉強?翠に教えてもらえばいいんじゃないのか?」
「姉ちゃん、国語はダメだもん」
確かに母親がアメリカ人で帰国子女の二人は英語は得意だが国語が昔から苦手だった。
「国語・・・うまく教えられるかな。俺、どっちかというと理数系なんだけど」
「お願い、俺どうしても龍ちゃんとおんなじ高校行きたいもん」
それには激しく同意。
「まあ、一度やってみるか。だけど、やってみて成果が出なければ、ちゃんと塾にいけよ?」
「龍ちゃん、ありがと!」
あおたんはにこっと笑うとぴょんと俺に飛びついてきた。
ブウォホッ!これじゃあ、地獄から天国だよ!
でも、これぞあおたんだよな。
普通、中3の男子がこんなことやらないと思うんだけど、あおたんなら違和感が無いというか許されるというか。
でも、そろそろ降りてくれないと色々やばい。
そんなわけで金曜の夜8時から10時まで、俺の部屋で国語の勉強をすることになった。
高校に入ってからあおたんに会える時間が激減していた俺は、これから毎週二人で過ごす時間ができたことにむふふと浮かれていて、なぜあおたんが国語の成績が悪いだけでこんなに元気がなかったのか深く考えもせず、そして、勉強会の時間が俺の苦行の時間にもなるとは予想していなかった。
*****
毎週金曜日に天使に勉強を教える。
それがどんなに大変なことか、想像しなかった俺は馬鹿だ。
何しろ至近距離で天使が唇を尖らせて考え込んだり、解説する俺をブルーの瞳でじっと見つめたりするのだ。
あおたんが問題を解いている間は、つい気が緩んでそのかわいい姿をじっと見つめてしまう。
でもそういう時に限って、あおたんが顔をあげ俺に向かってにこっと笑うのだ。
俺は煩悩に踊らされないように、精神修行をしている気分になる。
あおたんが真面目に勉強してるというのに俺はなんたるテイタラク。
そうそう、俺も頑張らねば。
俺の高校は中間や期末考査の各学年上位30名の成績が廊下に張り出される。来年、あおたんが入学してきたときにかっこ悪いところは見せられない。
そう思うと自分の勉強にも張りが出た。
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