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第14話
俺はリューセーのことを知れば知るほど強く憧れた。
日本では年上の人をあまり呼び捨てにはしないと知ってからは「龍ちゃん」と呼ぶようになった。
最初にそう呼んだとき、ちょっと恥ずかしそうに笑ったのがなんだかかわいかった。
龍ちゃんは中学生になったあたりからどんどん大人っぽくなった。
益々背が伸び、肩幅が広くなり、顔も男らしくなって更にカッコよさが増した。
無口で無骨ながら根底の優しさは変わらずで、同級生の女子達が「八神先輩、かっこいいよね」とひそめきあっているのを何度耳にしたことか。
だが、龍ちゃんの大人びた風貌と一種超然とした態度に誰も面と向かっては告白したりできないようだった。
翠と龍ちゃんは同じ高校に合格した。
今まで毎日3人で登校していたのに、春からは二人は電車に乗って違うところへ行くんだと思ったら寂しくて仕方がなかった。翠が羨ましかった。
翠は少し前から、急に女の子っぽい行動をとるようになっていた。
前はサバサバと男の子みたいだったのに、急に髪形や洋服に気を遣うようになり、小さなニキビや唇のかさつきを気にするようになったのだ。
マムが「翠は誰か好きな子ができたのかもねー」なんていうからびっくりした。
観察していると、どうも八神道場へ行く日に限って一生懸命髪をまとめたり、眉の形を気にしたりしているような気がする。どうせ、すぐに汗だくになるのに、なんで?
まさか、翠の好きな人って龍ちゃんじゃないよね?
心臓がなぜか嫌な感じに軋んだ。
4月になり、俺は一人で登校するようになった。
途中で友達と自然に合流するのだが、それでも龍ちゃんがいなくて寂しい。
道場に行けば、学校から帰ってきた龍ちゃんと会えるかな?
そんな期待を込めて道場へ行き、稽古の後なかなか着替えにとりかからずに仲間と話して時間を潰していたら、駅の方角から龍ちゃんが歩いてくるのが見えて、うれしくて飛び出した。
「龍ちゃん!おかえり!」
龍ちゃんは
「おう、蒼。稽古はもう終わりか?」
と微笑んでくれた。
龍ちゃんの微笑みは他人にはわかりにくい。目尻が少しだけ下がり、口角が少しだけ上がる。でも、俺にはこれは龍ちゃんの機嫌のいい時の顔だとわかる。
気が付いたら、翠も一緒だった。
え?
そして二人は送るだの明日の朝の待ち合わせだの、俺にはわからない話をしている。
でも、龍ちゃんは部屋に行ってもいいと言ってくれた。
嬉しい気持ちとなんだか不安な気持ちが半分ずつだ。
もしかしたら二人は付き合いだしたのかもしれない。
俺は我慢できずに龍ちゃんにさっきの待ち合わせのことを聞いてみる。
そしてボディーガードという言葉を聞いて心底ほっとした。おまけに俺の心配までしてくれて嬉しくなった。
でも、翠がどう思っているかは別の話だと気が付いた。
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