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第16話

悲しい気分はなかなか回復しなかった。 嫌なことは割とコロッと忘れる俺にしては珍しく感じたのか、翠が「元気ないわね」とか声を掛けてくるのが嫌だ。 「翠のせいじゃん」 そう口から出そうになるけど、本当は翠が悪いわけじゃないって知ってる。 むしろ、龍ちゃんだったら好きになっちゃうのも仕方ないよな。 どんなに龍ちゃんがいい奴か、ずっと傍で一緒に見てきたんだから。 でも、とてつもなく辛いのだ。 稽古の後ぼんやりしていたら、二人が仲良く帰ってきてしまった。 ああ、もう。 二人は無言で何かメッセージをやり取りしている。 見せつけんなよ。 それでも俺は龍ちゃんの部屋に来るかという誘いに抗えずについていった。   龍ちゃんは、俺の元気がないと心配してくれた。 でも、翠が心配してたなんて言う。 そして恋の悩みかだなんて聞いた。   そうだよ!俺は龍ちゃんに恋をしてるんだよ! 幼馴染で姉貴の恋人の龍ちゃんに! そのとき俺は初めて自分の気持ちを正確に把握した。 龍ちゃんは辛抱強く俺の答えを待ってくれている。 気が付けば俺は「勉強を教えて」なんてとんちんかんなことを答えていた。   優しい龍ちゃんは俺のわがままを聞いてくれ、毎週金曜日に国語を教えてくれることになった。 単純に龍ちゃんと二人になれるのは嬉しいのもあったし、たとえ二人の仲の良さを見せつけられることになっても、龍ちゃんと同じ高校に行きたいという気持ちは変わっていなかった。 金曜日の夜は俺にとって大切な時間だった。 龍ちゃんに褒めてほしくて、ちゃんと真面目に勉強した。 俺が問題を解いている間は龍ちゃんも自分の課題なんかをやっていたが、ふと顔を上げるとこっちを優しく見つめている目と合うことが度々あった。 俺は嬉しくなってにこっと笑う。 そうすると龍ちゃんも少し目尻が下がって口角が上がる。 俺の大好きな顔だ。 それを見るたび俺は心の中で「龍ちゃん、大好きだよ」とつぶやいた。

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