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第26話

頑張った分、体育祭が終わると、なんだが気が抜けてしまった。 3年生たちはこれから受験モードに入るからまた龍ちゃんは遠くなってしまうだろう。 どうせ、翠の彼氏なんだから俺と龍ちゃんの間に何が起こるってわけでもないんだけど。 はああ。なんだかなあ。 そんな気分でその日も彼女と下校しようと校門を出た。 なんとなく隣にいる彼女から不機嫌オーラが出ている。 なんだよ、またか。面倒くさい。 今の彼女はちょっと気に入らないことがあると、すぐに顔に出す。 そしていたるところに地雷があって困る。 「どうしたの?」 「私、蒼君の彼女だよね?美術の時間、山川さんとべたべたし過ぎじゃない?」 全く身に覚えはないのだが、この子がこんなことを言い出すのはこれで3度目だ。しかも相手は毎回違う。 共学に通ってたら他の女の子とも話さないわけにはいかないだろ。 あー、もういいや。 「俺、君といるとすごく疲れる。もう終わりにしない?」 彼女は怒りで顔を真っ赤にして、くるりと踵を返してどこかへ走って行ってしまった。 あれは「ごめんね」と追いかけてきて欲しい時の常套手段だ。 もちろん俺は追いかけたりしない。 ちょっとせいせいした気 分で駅に向かって歩き始めた。 駅の近くまで来たとき、少し先で龍ちゃんと翠が立ち止まっているのが見えた。 そして急に龍ちゃんが翠の手を引いてどこかへ引っぱっていく。 なんだかいつもと違う様子に興味をひかれた。二人は駅に行く手前で角を曲がった。 どこに行くんだろう? 俺の足は勝手に二人を追いかけ始めた。 二人は駅の反対側にある公園へ入っていく。 この辺に公園があることは知っていたが、入るのは初めてだった。 もしかしたら二人はいつもここで恋人の時間を過ごしていたのだろうか。 そう思うとちょっと嫌な気分になった。なのに追いかけるのを止められない。 二人の姿を探してうろうろする。木の陰になるように立っている二人が見えた。 龍ちゃんが翠を胸に抱きながら、顔を覗き込むように何か話しかけている。 そして翠の頭を大きな手で優しく優しく撫でていた。 初めて見る二人の親密な姿に、足が固まったように動かなくなった。 やっぱりあの二人は恋人同士なんだ。 そんな今更な事が初めて目に見える形になって押し寄せてきた。 苦しい。とてつもなく苦しい。 俺は思い出したように呼吸をし、硬直していた体をぎこちなく動かして踵を返すと、その場を後にした。

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