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第27話

翌朝、翠は熱があるから学校を休むといって部屋から出てこなかった。 なんとなく顔が合わせづらくて俺は昨日の晩は早くに部屋にこもっていたから昨夜も会っていない。今朝も顔を見ずにすんでちょっとほっとした。 学校では数人の女子がちらちらとこちらを見ているのに気が付いた。 大方、昨日の彼女とのやり取りを誰かに見られて噂が流れ、別れたのか?それならアタックしようか?などと探っているのだろう。 面倒だから今日はさっさと帰ろう。そう思って帰ってきたはずだったのに、なぜか俺の家の前で彼女が待っていた。 「蒼君、私、昨日へんなヤキモチやいちゃってごめんね。蒼君、人気があるから私いつも不安なのよ」 と計算された上目づかいで見上げてくる。これも彼女の常套手段だ。 「どうせ、また同じこと繰り返すよ。濡れ衣だけど、もうどうでもいいよ。終わりにしよう」 「待って、蒼君。蒼君みんなにやさしいから、私勘違いしちゃったの。もっと私だけを見てほしいって思ったの」 俺は困って頭を掻く。 それは君のプライドが許さないの間違いじゃないの? 君の今までの彼氏みんな顔だけの男で、『彼氏がこんなことしてくれた』って愛され自慢を君がSNSで垂れ流してるの、結構有名よ? あ、顔だけの男って俺もそうか。 「ごめん、それ無理だわ。君はもっと君に合った独占欲の塊みたいな人と付き合った方がいいよ。じゃあね。ばいばい」 「蒼君、ひどい!」 今度は芝居がかった声を出して目をウルウルさせ始めた。 「いい加減にしてよ」と言いかけて、背中に人の気配を感じて振り返る。 そこには龍ちゃんが立っていた。 彼女は龍ちゃんの登場に驚いたのか、慌てたように目を抑えながらに駅方面へ走り去った。 「今日、翠が休んだろ?配布物届けに来た」 平然とした様子で言う龍ちゃんに、俺の中の何かがぷつんと切れた。 「入れば?部屋にいるんじゃない?」 そっけなく言う。 頷いて玄関に向かった龍ちゃんが、立ち止まり振り返った。 「彼女、泣いてたんじゃないか?追いかけてやらないのか?」 「さっき別れたからどうでもいい」 俺はそっぽを向いたまま、つっけんどんに答える。 龍ちゃんはしばらくじっと俺を見て言った。 「蒼、さっきの子、7人目か8人目の彼女だろ?どうしてもうちょっとみんなに優しくしてやらないんだ?お前、そんなに情の薄いやつでも軽いやつでもないだろう?」 龍ちゃんの言葉に俺は完全にキレてしまった。 「龍ちゃんに何がわかるって言うんだよ!俺にも色々あるんだよ! そうだよな、龍ちゃんはいつでもどんな時でも平然として正しいことをするもんな!勉強もスポーツも人間関係も完璧で、悩むことなんてないんだろ! 俺のことなんか、何にもわかってないくせに!そんな龍ちゃんにとやかく言われたくないね!!」 一気にまくしたて、息が切れてゼイゼイいった。 龍ちゃんはじっと俺を見た後、なぜか自分の右手の平をしばらく見ていた。 そしてまた俺の顔に視線を戻し「悪かった」と一言だけ言って、背中を向けドアの向こうに消えた。 俺は続いて玄関の中に入ることが出来ずに、家の近くの公園でブランコを漕いで時間を潰した。 激しい後悔に襲われていた。 龍ちゃんは何も悪くない。完全な俺の八つ当たりだ。 謝りたいという気持ちがあったけど、恋人の翠を見舞いに来ているのだと思ったら、そこから動けなかった。

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