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第28話
そのあとすぐに期末試験が始まった。
その間も俺はずっと自責の念にとらわれていた。
試験明けの休みに、思い切って龍ちゃんの家に行った。謝りたかったのだ。そして許して欲しかった。
でも龍ちゃんは家に居なかった。
道場の方に回ってみたら、虎牙(コウガ)君がいたので龍ちゃんの所在を聞いた。
「あいつ、今、東京にいるんだ。しばらく帰ってこないよ」
東京?なんで?
詳しく聞きたかったが、ちょうど道場に電話がかかってきてしまい、それ以上虎牙君とは話せなかった。
翠が知っているかもしれないと家に戻る。でも翠は何も知らなかった。
「ふーん、龍ちゃん、東京に行ってるんだ」
「彼女なのになんで知らないんだよ!」
せっかく謝る勇気が出たのに出鼻をくじかれた気分で、今度は翠に八つ当たりする。
「え?私、彼女じゃないもん」
「はああ!?」
「え?龍ちゃんから聞いてないの?龍ちゃんは私を守ってくれてただけだよ?あ、学校では彼氏のフリしてもらってたけど」
あまりの驚きに呆然とする。
「なんだよ、それ・・・」
って、ついこのあいだ公園で抱き合ってたの誰だよ。
「龍ちゃんって、本当に優しいよね。ずっと黙って虫よけの役引き受けてくれて。最近私が失恋した時も優しく慰めてくれるしさあ。次の日、私が泣きすぎたせいで目が腫れちゃったからズル休みしたの知ってるのに、わざわざ様子まで見に来てくれるんだもん。モテるのもわかるわ」
「・・・そんな役、龍ちゃんにさせたら、いくら龍ちゃんがモテても彼女できないじゃないか。姉ちゃん、すごい自分勝手だな」
「そうなんだけど・・・それでも龍ちゃんがいいって言ってくれたから。これは私の推測だけど多分、龍ちゃんもずっと辛い恋をしてるんじゃないかな。なんかその辺通じるものがあったから」
俺は大混乱にふらふらしながら、なんとか自分の部屋のベッドにたどり着いた。
なんなんだ?
どういうことだ?
確かに最初、龍ちゃんは翠のボディーガードになってやるというような言い方をしていた。それは今までずっと言葉通りの意味だったのか?
それに、龍ちゃんが辛い恋をしている?
俺は龍ちゃんに投げつけた自分の暴言を思い出し、頭を抱えた。
自分の手のひらをじっと見つめていた龍ちゃんの姿が蘇る。
龍ちゃん、あの時どう思ってたの?
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