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第30話
「明日龍ちゃん帰って来るんだってー」
2学期の始業式の2日前に、翠がスマホを見ながら言った。
俺にはあれ以来、何も連絡は来ていない。
始業式の朝、龍ちゃんと待ち合わせをしている翠に、久しぶりについて行った。
ちょっと気まずい思いをするかもしれないけど、やっぱり直接会って謝らないと、龍ちゃんが本当に許してくれているのか分からないと思ったからだ。
先に駅で待っていた龍ちゃんに翠が声を掛ける。
「龍ちゃん、おはよう~!なんか久しぶりだね!」
顔を上げた龍ちゃんはいつものように穏やかな顔で、「おはよう」と言った。
たった1か月半見なかっただけで、龍ちゃんはまた凄く大人になったように見えた。
二人は並んで前を歩きながら
「叔父さんはもういいの?」
「ああ。もう松葉杖は必要なくなった」
と親し気に話している。
この二人は恋人同士じゃなかったけれど、親友だったんだな。
俺はもう友達とすら思ってもらえていないのかもしれない。
駅から学校に向かう途中で翠が女友達に話しかけられ、ようやく龍ちゃんに声をかけるチャンスが出来た。
「龍ちゃん、この前の事、ほんとにごめんね。俺、随分ひどいこと言っちゃった」
「気にするな」
「でも・・・」
龍ちゃんは立ち止まって俺を見た。
「蒼は何もおかしなこと言ってない。謝る必要はない」
龍ちゃんはそう言ったけど、俺は見てしまった。
今までなら俺がごめんなさいをした時に、ポンと頭にのせてくれる右手が、固く握りしめられているのを。
そして、また前を見て歩き始めてしまった。
でも、すぐに足を止め、前を向いたまま言った。
「蒼、もう俺に飛びついてくるのはやめろ」
それだけ言うと、龍ちゃんはまた学校に向かって歩き始めた。
龍ちゃんに・・・嫌われた・・・。
いや違う。
龍ちゃんは俺がちょっとキレたくらいで嫌ったりしない。
俺はきっと愛想をつかされたんだ・・・。
俺はしばらくそこから動くことができなかった。
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