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第31話 俺の天使3(決別)
「龍ちゃんに何がわかるって言うんだよ!俺にも色々あるんだよ!
そうだよな、龍ちゃんはいつでもどんな時でも平然として正しいことをするもんな!勉強もスポーツも人間関係も完璧で、悩むことなんてないんだろ!
俺のことなんか、何にもわかってないくせに!そんな龍ちゃんにとやかく言われたくないね!!」
目の前で、あおたんが見たこともない表情で叫んでいる。
・・・そうだよな、あおたんにも色々あるよな・・・。
いつの間にかあんなに小さかったあおたんの目線は俺の鼻のあたりまで来ている。
いつまでも俺が右手でふわふわの頭をポンポンしていたあおたんでいるわけがなかった。
俺は翠の部屋をノックした。
瞼がぱんぱんに腫れたからズル休みすると言っていた翠はどうやら一晩泣いたらしく、確かにすごいことになっていた。
翠は注目を集めるから休んで正解だったろう。
だが、当の翠は気丈に言った。
「龍ちゃん、私もうきっぱり振り切った。ちゃんと獅央君に心からおめでとうって言える」
あっぱれなやつだと感心した。
「龍ちゃん、私にもし新しく好きな人が出来たら最初に龍ちゃんに報告する。それまでは一緒に登校してくれる?」
晴れ晴れとした顔で言う翠に、俺は頷いた。
家に帰ってから、花村家での出来事を思い返した。
あおたんの叫びが何度も耳にこだまする。
そうだ。
俺はずるかった。
本当は天使のあおたんなんて俺が現実と向き合うことから逃げるために、自分に都合よく作り上げたものだ。
蒼は良くも悪くも普通の男子だ。
だが俺は自由で天真爛漫な蒼の事が好きだったのだ。
何が天使だ。何が木になろうだ。
本当の蒼のことを、蒼の心の中のことを知ろうとしなかった。
正面から向き合って、ただの幼馴染だと一言で片づけられてしまうのが怖かったからだ。
人の恋愛に口出しする資格なんて俺には無かった。
そして、翠の潔さを思う。
俺も、不毛なことはもうやめよう。
自分の広げた右手をぐっと握り込み、決心をした。
「さよなら、あおたん」
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