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第36話
ゴールデンウィークには翠一人が帰ってきた。
先週、同じ高校から東京に進学した仲間たちで集まったときに、龍ちゃんにも会ったらしい。新しい友達もたくさんできて充実していると言っていたそうだ。
久しぶりに家族4人そろって夕飯を食べていると、突然ダッドが爆弾を落とした。
「実は、しばらくアメリカに拠点を移そうかと思ってるんだ」
晴天の霹靂だった。
「アメリカの出版社の方からオファーが来ているんだよ。ちょっとシリーズものを数年かけてじっくりやりたいらしくてな。カメラマンはあっちで用意されているらしいし、こっちから行ったり来たりするより、いっそしばらくあっちに行こうかと思ってな。ちょうど、翠の受験も終わったし。
蒼はどうする?このまま日本で受験して日本の大学に進むのなら、俺だけ先に行って、蒼の受験が終わってからジェニーがUSに来てもいいし、9月からあっちの高校に転校してそのままあっちの大学に入ってもいいし。お前はまだアメリカ国籍もあるからどうとでもなるだろう。好きでいいぞ」
俺が日本に来たのは10歳の時。
17歳の今まで、ずっとここにいたのは放浪癖のある親父にしては我慢した方なんだろう。子供達の教育を考慮してくれていたのかもしれない。それにマムもきっとアメリカに帰りたいのではないだろうか。
「考えてみるよ」
そう答えた俺だったが、7月には両親とともにアメリカに向かう飛行機に乗っていた。
「私、日本が大好きだったわ。日本人はとても親切で優しいし、水道のお水も飲めるし、食べ物も美味しいし。電車もバスもちゃんと時間通りに動くし、何より銃をぶっぱなすバカもいないしね」
マムが眼下に遠ざかっていく日本を見ながら感慨深げに言った。
もはやおれにしてみれば、それらは当然のことだった。
代わりに俺の頭の中にあるのはもう会えなくなる龍ちゃんの事ばかりだった。
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