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第39話
チャンスは大学1年の終わりごろにやってきた。
キャンパスで時々目が合うなと思っていた男が声を掛けてきたのだ。
エリックと名乗る彼は俺より2つ上の学生だった。
「君、こっち側の人間だよね?美人だなってずっと気になっていたんだ」
アメリカンフットボールをやっているというエリックはいかにもという体つきで、肩幅が広く胸板も厚い。龍ちゃんも日本人の中ではかなり秀でた立派な体躯をしていたが、やはり欧米人のような派手なマッチョさはない。
俺も欧米人の血が半分流れているわけだが、母親はかなり華奢で小柄だったので、鍛えていても日本で言うところの細マッチョ?
正直エリックのいかにも雄らしいマッチョさは気に入った。
何度か学内で顔を合わせ親しくなるうちに、俺はエリックに自分は多分ゲイだが男と付き合ったことはないからどうなるか分からないと漏らしていた。
「じゃあ、俺と試してみればいいじゃん」
エリックはこともなげに言った。
一瞬、龍ちゃんの顔が浮かんだ。
だけど、その時俺が考えたのは・・・
どこかの部族が、大人の男として認められるために崖から飛び降りたり、ライオンと闘ったりする儀式のように、俺はこれを乗り越えなければ龍ちゃんから卒業できない。
気が進まなくても、ちょっと怖くてもやるしかない。
なぜか頑ななまでににそう思ったのだ。
そのまま、エリックの部屋へ連れていかれ、男とのファーストキスとバックバージン喪失をした。
エリックは俺が初めてだと知っているから、「全部俺に任せて」と慣れた様子でリードしてくれたし、きっと優しくしてくれたんだろう。確かに男同士だから感じるポイントはよく分かっていて俺の体も反応はする。
でも、俺は途中から涙が止まらなくなった。
エリックが「生理的な涙だから大丈夫だよ」と安心させるように言ったが、そうでないのは自分が一番よく分かっている。
龍ちゃん、苦しい。
龍ちゃん、助けて。
龍ちゃん、会いたい。
龍ちゃん、好きだよ・・・。
エリックが「ああ、君はなんて美しいんだ」「きつく絡みついて溶けてしまいそうだよ」などと興奮すればするほど、俺の気持はどんどん地下にめり込むほど落ちて行った。
コトが終わった後、エリックが
「君の体、素敵だったよ。これからもこういうことしようよ。俺たちセフレにならない?」
と言った時には、「ごめん」とだけ言って部屋を飛び出した。
帰り着いた自分の部屋で、俺は訳もわからず泣いた。
俺の中のぐちゃぐちゃな気持ちで言語化できるのは「龍ちゃん」だけで、ただただ身悶えするほど苦しくて、もしできるなら自分の体の中に手を突っ込んで胸の中を掻きむしりたい程だった。
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