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第44話

「資料に目は通してくれたかい?」 打ち合わせが行われる会議室に向かいながら課長が聞く。 「はい。しかし、いきなり今日、広告代理店と打ち合わせとは。付け焼刃がバレませんかね?」 「いやいや、先方も事情は分かってくれている。それに、製品の中身を作るのは我々だがそれ以外の部分は先方が作るといっても過言ではない。うちとプロダクトデザイナーと広告代理店の共同制作と考えてくれていいんだ」 「はあ、そういうものなんですか。今までとは随分勝手が違うので、足手まといにならないように気を付けます」 「いやいや、私もまだまだ手探りの状態なんだよ。お互いに頑張ろう。ところで、今日紹介するプロダクトデザイナーさんは一昨年に健康飲料でヒットを飛ばした人なんだよ。広告代理店の担当者も、なかなか面白いよ。ハンサムなんで、彼が来るときはいつも事務の女の子たちがそわそわしはじめるんだ。それで私もそろそろ時間だなってわかるくらいなんだ。」 「ふふふ、それはすごいですね」 そんなことを話しながら、課長は会議室のドアをノックして開けた。 名刺はちゃんとあったよなと思いながら課長に続いて部屋に入った俺は、テーブルについていた四人のうち、自社の人間でない方の二人組を見て固まった。 「龍ちゃん!?」 ああやっぱり。二人組の男の方は大きく目を見開いている蒼だった。 なぜ蒼がここにいる? 皆が一斉に「お知り合い?」と俺の顔を見る。 「はい、幼馴染です。随分久しぶりですが」 すごい偶然だねーとか周りが口々に言う中で、二人組と名刺交換をした。 女性の方はプロダクトデザイナーらしい。 蒼は、課長から聞いていた通り日本の大手広告代理店の名刺を渡してきた。 俺は蒼が日本にいることも、日本の企業で働いていることも知らなかった。 打ち合わせを進めながら一言も聞き漏らすまいと集中しているはずなのに、頭のどこか片隅では蒼のことを考えている。 一時期、俺は自分の中に天使をすまわせていた頃のことを、自分の黒歴史だと思っていた。 だが大人になった今は、あれは俺の大事な初恋で、未熟だった自分をそんなに責めなくてもよかったのではないかと思うようになっていた。 あの中学生の頃は同性愛などの知識もなかったし、蒼にしても兄のように慕っていた俺に、勝手な気持ちを押し付けられても困っただろう。 天使のように美しい少年に恋した甘酸っぱい思い出。 そんな風に昇華させたつもりだった。 それが、こんなところで初恋の人に会うなんてな。 それにしても。課長が言うように蒼はますます美しくなっていた。 最後に見たのは俺の高校の卒業式。あの時も青年になったと感じたが、あのころよりも少し男らしさも加わって大したイケメンになっていた。茶色い髪は以前より少し濃い色になった気がする。背も少し伸びたか。ブルーグレーの大きな瞳は昔のままだった。

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