45 / 86
第45話
打ち合わせ解散後、蒼が近づいてきた。
「龍ちゃん、今日はびっくりした」
「俺の方こそ驚いた。蒼が日本にいることすら知らなかったからな」
「え?」
蒼は一瞬目を丸くしたが
「ねえ、龍ちゃんの個人的な連絡先聞いてもいい?今度どこかで食事しながらでも再会を祝おうよ」
と人懐っこい笑顔を見せた。
こんな顔を見せたら世の女性はコロッといくのだろうな。
そもそも蒼はもう結婚したのだろうか?そっと左手に視線を走らせるが指輪は見あたらなかった。
連絡先を交換してその日は別れた。
その後、二人の予定をすり合わせたがお互いにかなり多忙であることが分かった。
打ち合わせでは何度か顔を合わせたが、個人的に会う時間が取れたのは3週間近く経ってからだった。金曜にこちらで打ち合わせを終わらせた後、会社近くの新丸ビルで落ち合うことにした。
打ち合わせが夜になると、特に女性陣がこのまま食事にでもと言い出すので、その日はわざとどちらも先約があると口裏を合わせた。
別に他人がいても構わないのだが、やはり10年ぶりの再会だし、色々聞きたいこともある。
あまり邪魔されたくなかった。
予約しておいたカジュアルなイタリアンに入った。
まずはスプマンテで乾杯をする。
「蒼と酒を飲む日が来るとはな。お前、アルコールは大丈夫なほうか?」
「まあ人並み。龍ちゃんは?なんかすごく強そう」
「あまり酔ったりすることはないな。無駄に酒代がかかると文句を言われる」
ふっと蒼の顔に影がさす。が、すぐに笑顔になり、
「龍ちゃんは指輪はしない派なの?やっぱりサムライはそんなのしないの?」
と聞いてきた。
は?何を言っている?
「子供はもういるの?」
ああ、蒼はもう俺が結婚していると思っているんだな。
「いや。子供も何も、俺は独身だ」
向かいで蒼が目を見開いて息を飲んだのがわかった。
ともだちにシェアしよう!