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第47話 俺のサムライ4(神の慈悲?)
その日、俺はM社の会議室で新しく担当になる営業担当者を待っていた。
はっきり言ってこの仕事は手こずっている。
M社は老舗の大手化学メーカーだが、エンドユーザー向けの化粧品の商品展開を初めて手掛けるという、どこかで聞いたことのある感の否めない企画だった。
社内では鳴り物入りの新プロジェクトなのかと思いきや、今一つコンセプトも絞り切れていない上に割かれている人員も少ないし、スタッフも研究畑寄りで不安だ。
今まで最先端ではあってもマニアックな素材を専門企業相手に商売したことしかない人達なのだ。この企画を成功させるには相当うまくやらなければ厳しい。
そして、俺の不安は的中する。
まず研究所とのパイプ役のスタッフがなんだか様子がおかしいぞと思っていたらうつ病になり休職してしまう。
先日は打ち合わせ直前に電話が入り別のスタッフが過労で倒れたと連絡がきて延期になり、また頓挫してしまった。
昨日、電話を掛けてきたM社の課長は平謝りで、
「今度は大丈夫です。営業からホープを引き抜きましたので。営業経験は短いですが仕事のできる奴です。明日の打ち合わせから参加させますのでどうかよろしくお願いします」
本来なら先方がお客さんなのだが、失態続きに課長も立場がないのだろう。
かくして、今度こそまともな奴が来てくれますようにと、プロダクトデザイナーの菊川さんと目くばせしながら待っていた。
「お待たせしました」
と元気よくドアを開けた課長に続き入ってきた大男に、俺は仰天した。
それが龍ちゃんとの10年ぶりの再会だった。
10年ぶりの龍ちゃんは俺の想像の中の龍ちゃんよりずっと大人の魅力を備え、かっこよくなっていた。
短髪だった頭は少し髪が長くなり、爽やかに整えられている。初めて見るスーツ姿は隙が無く、デキるビジネスマンといった印象。
菊川さんと挨拶をするときにふっと微笑んだ顔には、以前には無かった男の色気みたいなものを感じる。
菊川さんが瞬時に「あら、いい男」と値踏みしたのが分かった。
最初こそ、俺を見て、少し目を見開き驚いたようだったが、すぐに平静を取り戻し淡々と話をはじめる。
相変わらず龍ちゃんぽいと思ったが、もしかしたら俺との再会なんて龍ちゃんにとっては取るに足りないものだったのかもしれない。
俺は、営業スマイルを保ちながら内心はバクバクしっぱなしだった。心臓がいつもの二割増しの速さで動いている気がする。手にも汗をかきまくり、何度もこっそりハンカチで拭った。
我ながらおかしい。
もう家庭も持っているはずの龍ちゃんに再会できただけで、やっぱりこのために自分は日本に戻ってきたのではないかと考えているのだから。
そして、龍ちゃんなら久し振りに再会した幼馴染を邪険にあつかったりはしないという確信のもと、二人で食事に行く約束を取り付けた。
俺は約束の日まで毎日龍ちゃんのことで頭がいっぱいだった。
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