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第48話

まだアメリカで働いていた時。 翠から龍ちゃんの婚約話を聞き、わずかな望みも粉々に砕かれた。 俺を心配するライアンやミゲルが、俺の好みに合いそうな男がいれば強引に紹介してくれたりもしたが、誰ともあまりうまくいかなかった。 別に相手の事が気に入らないわけでも嫌いなわけでもない。どうでもいいやと冷めているわけでもない。 心では、このささくれだった気持ちを誰かにあたたかく包んでほしい、溺れるほどの恋愛をしてみたい、と思っているのだ。 それなのに、心の奥底にはずっと龍ちゃんが居座ったままだし、たまに夢にも出てくる。 やってはいけないとわかっているから気を付けているはずなのに、気付けばまた付き合っている相手と龍ちゃんと色々比べてしまっていて、自己嫌悪に陥る。 一番ひどかったのは、あのときだ。 その日は珍しくセックスで俺が高まり、相手が盛り上がって俺を攻め立てていた。感じるポイントを立て続けに攻められ頭に星が点滅し始めたところまでは覚えている。そのあと、俺は初めて失神した。 そんな激しいセックスをした後なのに目覚めた後の彼氏の機嫌がすこぶる悪い。俺が先に気を失ったせいでうまく達けなかったのだろうか?だとしたら申し訳なかったなと、彼氏の腰に甘えて抱きついてみた。 「リューチャって誰だ」 冷たい声で言われて、俺は凍り付いた。 「初めてお前がセックスで熱くなって、やっと俺にさらけ出してくれたと思ったのに、他の男の名前を呼んで失神されるとはな!」 彼はベッドサイドのテーブルにあったグラスを壁に叩き付けた。 パリンッとグラスが砕け散るのと同時に、俺の中の何かも壊れた気がした。 結局、その男とはそれっきりになった。 それからはまた同じ失敗をするのではないかと、セックスが怖くなった。 俺はずっと龍ちゃんにとらわれている。 病的だとも思う。 どうしたらいいのだ? 別れる前の微妙な関係がいつまでも俺を未練たらしくさせるのだろうか。 一度会って、きっぱり振られたら次に進めるのだろうか。

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