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第49話
日本の大手広告代理店の現地法人、厳密には買収されたアメリカの広告代理店に就職していた俺は、日本への転属を願い出た。
もう色々限界だったのだ。
俺の決断を聞いてミゲルは驚いた。
「そこまで思い詰めてたんだね。アオが幸せになれるようにずっと祈ってるよ」
と抱きしめてくれた。
日本へ行ったところで、すぐさまどうにかなるとは思わない。
ただもしかしたら日本人なら、俺の記憶を上書きしてくれるような男がいるかもしれない。
そして、家族に囲まれ幸せそうな龍ちゃんに会うことが出来たら俺の心も少しは整理ができるかもしれない。
そんな気持ちだった。
連絡先が分からなくなっていた俺は、唯一パイプがある翠に俺が日本へ行くこと、連絡先などを龍ちゃんに伝えてくれるように頼んだ。
龍ちゃんが連絡をくれたら、どういう風に話そう。
そんなことを一人で悶々と考えていたのに、いつまでたっても龍ちゃんは連絡をくれなかった。
その事実がボディブローのようにじわじわと効いてくる。
もう連絡を取りたいとも思ってくれないのだろうか。
八神道場に問い合わせてみようか。
何度もそう思ったが臆病になりすぎて、なかなか踏ん切りがつかなかった。
苦しさに耐えかねて、日本人の男にサムライを探す。
同じ日本人だから顔立ちが似ていたり、髪が似ていたり、無口であったりすることはあるが、やはり違う。
俺は一体いつまで龍ちゃんそっくりさんの間違い探しを続ける気なんだ。
そんな時、取引先で偶然龍ちゃんと再会し、一緒に仕事まですることになった。
イカレてる俺を神様が憐れんで、慈悲を与えてくださった、とか?
龍ちゃんを一目見て、ああやっぱり俺が好きなのは今でも龍ちゃんなのだとわかってしまった。
もうこれは龍ちゃんに引導を渡してもらうしかない。
龍ちゃんの幸せな家庭を壊すつもりはない。
ならば本人にバッサリやってもらうのが一番効果的だ。
俺は、約束の日に俺の過去の気持ちを打ち明け、振ってもらう覚悟をした。
だが、情けない俺は縋りつきたい藁を1本見つけてしまっていた。
龍ちゃんの左手には指輪が無かったのだ。だが日本人の男は恥ずかしがって結婚指輪をはめない人も多いことを俺はちゃんと知っている。
だから、会って乾杯をしてすぐにその話を振ったのに・・・返ってきた返事に俺は激しく動揺した。
独身?
そんなこともあったな?
相変わらず言葉が足りない龍ちゃんの説明では婚約していたことがあったのか、結婚していたことがあったのかも分からない。
聞けばいい。
そうなのだ。昔から龍ちゃんは最低限度の事すら話さない。
だから翠とのことも誤解があったんじゃないか。
あの時 も俺が聞かなかったんだ。本人たちに何一つ聞かないで、周りの噂で勝手に思い込んでしまったんだ。
こんなことでは広告マンとして失格だろう。いつも仕事でやっているように、相手に切り込んでいけばいい。
そう思うのにいつからか龍ちゃんを前にすると俺はまるでダメなもじもじ君になってしまう。
今日は玉砕する覚悟できたはずなのに、独身だと聞いて欲が出てきている自分に気づく。
立て直す時間を稼ごうとしているずるい自分に呆れるが、俺はそれに抗うことが出来なかった。
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