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第52話 俺の天使5(天使は再び舞い降りる)
蒼を俺のマンションに誘ったのは、店での会話の端々に蒼の逡巡が見えたからだ。
こいつはたぶん何か俺に話したいことがある。
何度もためらう素振りから、軽い話ではないのだろう。
地下鉄に一緒に乗って並んで立ったとき、ふと横にいる蒼を見た。
相変わらず燐光を放つような美しさがある。社の女の子達が王子様と騒ぐのもわかる。
だが、今、横に立つ蒼は少し儚いような弱々しさが透けて見え、
背中の羽が片方折れてしまって飛べない天使のように見えた。
高校の頃までの明るく飛び回っていた蒼とも、打ち合わせの時の茶目っ気のあるトークで皆を笑わせている蒼とも違うその様子に、放っておけない気になったのだ。
他人の耳を気にせず話せるところで、悩みを聞いてやるだけでも心が軽くなるかもしれない。そう思っていたのだ、その時は。
実際に俺の部屋で打ち明けられた話は俺の予想の斜め上をいっていた。
蒼は俺はおかしいんだ、半分狂ってるなんて言って話し始め、最後に自嘲的な笑みを浮かべながら言った。
「な、怖いだろ?」
「今の話をまとめたら、蒼は15年ちかくずっと俺を好きでいてくれたっていう話だろ?」
俺がそう言ったとたん、はっとしたように俺を見た蒼の目に涙が浮かんだ。
「俺のもう一つの隠し玉、教えてやろうか?」
涙をためた目で怪訝な顔をする。
「俺の初恋も5年以上と長かった。相手は蒼、おまえだよ」
大きく見開かれた目は、その後ダムが決壊したようになった。
「くそう、俺の10年を返せー!」
涙に濡れた顔でそう叫んだのには笑ってしまった。
一通り話して落ち着いた蒼は、急に顔を引き締め身を乗り出した。
「龍ちゃん、今、誰かと付き合ってる?」
「いや」
「俺と付き合って。答えは今でなくていい。10年ぶりに会ったんだからお互い変わっているところもたくさんあると思う。もう一度俺と恋が出来そうだったら、でいいから。
それとも、やっぱり結婚したいからもう男は無理・・?」
まだ睫毛に涙をまとったまま、正面から青い視線をぶつけてくる。
「当然ながら俺は子供は産めない。龍ちゃんの遺伝子を遺してあげることができない。それが龍ちゃんにとって大きなことで、付き合えないと思ったらバッサリと俺のこと振って。俺、もうこれ以上は苦しくて耐えられない」
と本当に苦し気な表情で、絞り出すように言った。
蒼が真剣だとわかるから、俺も「よく考える」と答えた。
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