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第54話

新事業の方は、今までの半年間、一体何をやっていたんだというような状態で止まっていた。 まあ、当初のメイン担当者が二人もいなくなってしまったのだからやむを得ない状況だったかもしれない。 上層部は、現場のいかんにかかわらず一度自分たちで決めた期日が間に合わなくなることをなかなか認めない。 ダメもとで打診してみたが、やはり厳しい返事が返ってきただけだった。 となれば、なんとしても間に合わせるしかない。 中核スタッフは商品企画部、研究室からそれぞれ一人。そして営業の俺。アシスタントの女子が一人と課長がうちの社員。 プロダクトデザイナーの菊川さんはベテランで頼りになりそうな女性。彼女に若い男のアシスタントが付いている。 広告代理店の担当は蒼。 まずは、今後何をしなくてはならなくて、どれを優先して進めていく必要があるのか洗い出しにかかった。 俺が見る限り研究室から素材はなかなかいいものが上がってきている。 だが、商品企画部がどういうものを作りたいというビジョンがきっちり示せていないので、菊川さんにうまく伝わっていかない。 俺は課長に商品企画担当を一人追加しろと進言した。 今の男性スタッフも真面目はいいのだが、これは化粧品だ。若い女性が欲しい。営業事務に頭の切れる女の子がいたので、その子をこちらへ回せないだろうか。 あと決定的に遅れているのが販路の確保だ。今まで存在しなかった販売先を作らなければいけないのだ。これも俺一人では間に合うわけがない。若いのがあと二人は欲しい。 俺は課長を説き伏せ、管轄部長のところへ課長と一緒に直談判に行った。 事業計画を頓挫させたくなければ、最低半年間、あと3人のスタッフをよこせと部長に迫った。 古い会社なので、管理職の頭は固い。部長から見れば俺はまだまだ耳を傾けるような相手ではない。「何を言っとるんだ君は」と鼻であしらわれたが、俺はめげなかった。 「既に二人潰れているんです。ここでまた躓いたらもう遅れを取り戻す手立てはないですよ」と部長を脅しにかかる俺の横で額に汗を浮かべていた課長も、援護の口添えをしてくれる。 部長を追いかけ回し、最後には「結果を出すように」とじろりと睨まれながらも、OKをもぎ取った。 不興を買ったかもしれないなと思ったが、そんなことを気にしている場合ではない。 とりあえず、新メンバーを加えたチームは走り出した。 そのうち、過労で自宅療養をしていた元の担当者も復帰してきて、当初に比べれば大所帯になった俺たちは、より大きな会議室を化粧品事業準備室として確保した。 蒼からの情報やアドバイスは畑違いな分野からきた俺達には大変頼りになった。 俺たちが表したいと思っている曖昧なイメージを具現化するのが的確で、 「そうだよ、こういう風に表したかったんだよ」と思わされることも度々あった。 お飾り上司はいらないと、課長すら走り回らせる俺を見て、蒼は返事は仕事が一段落する半年後でいい、今は一緒に仕事ができるだけで嬉しいからといじらしいことを言った。 実際、寝る間を惜しんで東奔西走している状態だから、蒼と個人的に会う時間も全く取れない。 たまにメールでやり取りするのが精一杯だったから、悪いと思ったが甘えることにした。

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