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第55話

蒼からは『忙しいと思うから返信はいらないよ』と最初に断りを入れて、2~3日おきにメッセージが届く。 内容は自分の仕事の失敗談を面白おかしく書いたもの、変な顔の犬を見つけましたという写真付きのもの、今日の昼食はラーメンでした、地元の来々軒うまかったよねというもの、そして俺の体調を気遣い励ますもの。 そして、5回に一度くらい、文末に添えられる「龍ちゃん、好きだ」という言葉。 多分、本当に送りたい言葉はこれ。 でも重くなりすぎないように、俺にプレッシャーを与えないように、他のメッセージで希釈している。 俺は疲れて帰ってきてから休む前に、蒼からのメッセージを読むのを楽しみにするようになっていた。『蒼、お前の術中にしっかりはまってるぞ』クスクス笑いながらも、穏やかな気持ちになる。 そんなメッセージが届くようになって約1か月。こんな文面が届いた。 『俺からのメッセージ、女子高生みたいでウザい? 高校のとき、何もしないまま勝手に勘違いして、龍ちゃんとすれ違ってしまったこと、もの凄く後悔しているんだ。 あの時の俺達には圧倒的にコミュニケーションが足りていなかった。同じ間違いはしたくない。 でも、今は龍ちゃんが大変そうだから、こんなことしかできることが思いつかない。 うっとおしかったらすぐ止めるから、遠慮なく言って』 ふふ、かわいいこと、言ってるな。 『会う時間が取れなくて悪い。 いつも蒼からのメッセージに癒されている。 これからも近況を知らせてくれ』 と返信すると、 『うん。メッセージだけで我慢して、お利口で待ってる』 と、犬がお座りをしているスタンプが一緒に送られてきた。 「龍ちゃん、俺、がんばったでしょ?ね?」 褒めて褒めてとキラキラした目で見上げてきた子供の頃の蒼の顔を思い出し、クスリと笑ってしまった。 時間が空いた時にポツポツと返信をすると、俺がうっとおしがっていないと安心したのか、少し真面目な内容のメッセージが送られてくるようになった。 『もし、龍ちゃんが俺の気持に応えてくれることになっても、後々こんな奴だと思わなかったって呆れられるのは辛い。だから、本当の俺を知ってもらいたいと思う』 そう言って自分の赤裸々な姿を綴って来る。 それらの中には『懺悔室』という回もあり、自分が悔いている行いを告白するものもあった。 正直、蒼がゲイ・ストリートで一夜限りの男を度々相手にしたことがあるという告白には驚いた。 勿論、男でも女でもそういう行動をとる人間が少なからずいることは知っていたが、俺の価値観ではそれは全くノーだった。 『これを告白するのはすごく勇気がいった。バカな事をしたと思っている。もう、俺は汚れているから・・・駄目かな』 確かに衝撃はあった。だが、これを送ってきた蒼の気持ちを想像する。 黙っていたらバレなかったのに、なぜわざわざこんなことを告白してきたんだ? 俺の部屋で見せた苦悩の表情を思い出す。俺の気を引きたい一心で送ってきたわけではないだろう。 時計を見れば、午前1時。 少し迷ったが、俺は通話ボタンを押した。

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