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第57話
女性誌用広告の下刷り資料を届けにM社の課長を訪れた。
今日は龍ちゃんと、山崎君が関西に出張中なので打ち合わせはない。
準備チームにあてがわれているいつもの会議室に入ると、女の子二人がきゃっきゃ言って盛り上がっていた。
「あ、花村さん、こんにちは!」
「なんだか楽しそうですね?」
二人は顔を見合わせると、にやにや笑い、
「花村さんも見ます~?山崎君が送ってきてくれたんですけど」
と、スマホを差し出した。
そこには野良猫の写真をスマホで撮ろうと大きな体を小さく屈めている龍ちゃんの姿が映っていた。
「ギャップ萌えですよね~」
「八神さん、こんな顔もするんですね~」
「昼休みにみんなに見せちゃお」
「その前に、私にその写真転送してよ」
また、二人はきゃいきゃいいいはじめ、課長に「そろそろ休憩は終わりだよ」などと言われている。
俺はそのトラ猫に見覚えがあった。
昨夜、「矢印」というタイトルと共に、途中で90度曲がって先っぽだけ矢じりのように膨らんだしっぽを持つトラ猫の写真が送られてきたからだ。
悪いね、君たち。龍ちゃんは俺に送るためにその写真を撮ってたんだぜ。
多分ウザく俺がメッセージを送り続けるから、たまには返信してやろうと思っただけだろうけど。
しかし山崎君も、なんて写真を撮ってんだよ。
俺的には「よくやった!その写真くれ!」と褒めてやりたいところだが、そんな写真が出回ったら、また女の子達の間にで龍ちゃんの株が上がっちゃうじゃないか。
龍ちゃんだけは誰にも譲れない。
龍ちゃんでなきゃダメだって、10年かけて身をもって証明したようなものなんだ。
今の俺は龍ちゃんを手に入れるためなら、なんだってやる。
まずは仕事。
神様がせっかく一緒に仕事をするチャンスを与えてくれたんだ。全力で行くしかない。
こんなに龍ちゃんが頑張っているんだから、俺も今回の仕事は何がなんでも成功させる。
後は、うっとおしがられない程度に好き好きアピールをして・・・それから・・?
次が出てこない自分の恋愛偏差値の低さにがっくりする。
だって、打ち合わせの時以外ほとんど会えないし。
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