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第60話
俺は自宅のソファーにスーツのままだらしなくのびていた。
今日は接待で飲まされ、帰るなりソファーにもたれて酔いをさましていたのを思い出した。
夢見の悪さに頭を掻きむしる。
おもむろに立ち上がり、スーツをその辺に脱ぎ散らかしながらバスルームに向かう。
冷たいシャワーを頭からかぶりながら、先程の夢を思い返した。
あれは俺の後ろめたさが見せた夢だ。きっとこの後ろめたさはずっと消えない。
もし龍ちゃんが俺を受け入れてくれたとしても、いつさっきのように背中を向けられるのかびくびくしながら付き合っていくのか?
キュッと水栓を回しシャワーを止めた。
知ってもらおう、龍ちゃんに。ありのままの俺を。
その結果、龍ちゃんが俺を見限ったら、それはそれで仕方がないではないか。とても・・・とても辛いけど。
その夜から俺は少しずつ、本当の俺を知ってもらうためのメッセージを送り始めた。
それでも俺が一番気に病んでいる部分は、やはりなかなか書くことが出来なかった。
その夜は、割と早く仕事が片付き10時には自宅へ帰り着いた。
今日こそはちゃんとメッセージを送ろうと決心する。全てやるべきことを終わらせてから送ろう。決して先送りにしているわけではない、と自分に言い聞かせる。
メッセージを送った後、厳しい返信がくるかもしれない。あるいは、返信が来るのをずっと待ってしまうかもしれない。メッセージを送ったら、酒を飲んで寝てしまおうと思っていた。
勢い付けに少し飲んでから、メッセージを一気に書き上げた。今まで何度も書いたり消したりを繰り返していたから、もう頭には文章が出来上がっていたのだ。
送信ボタンを押すのはさすがにしばらく躊躇したが、踏ん切りをつけて押した。
これでもう無かったことにはできない。
俺はウィスキーを流し込み、ベッドに潜り込んだ。
眠ってしまえ、と思うのになかなか寝付けない。
龍ちゃんに振られたら、俺はこれからどうするのかなと考える。
M社の仕事が終わるまでは、何度か龍ちゃんの姿を見ることはできるだろう。辛いだろうけど。
その後は・・・俺はいつか違う人と恋愛できるのかな。同じ東京に龍ちゃんを感じながら、そんなことできる気がしなかった。
龍ちゃんと再会できて、長年の想いも伝えることができたのだ。もう、俺は恋愛はいいかな。仕事好きだし、仕事に生きるか。後は何か趣味でも見つけて・・・ふと空手を、そして道着を着た龍ちゃんを思い浮かべてしまい、胸がきゅっとなった。
眠れないので、もう一度キッチンでウィスキーをあおる。喉が焼け胃がかっと熱くなる。こんなにストレートで飲んだら明日は二日酔いかもな、と少し酔いが回ってきた体をベッドに横たえた。
その途端、スマホが振動を始めギクリとした。見ちゃいけない、と思ったが振動を続けるスマホにメッセージではなく、電話が掛かってきていることに気づく。
恐る恐る画面を見ると、龍ちゃんの名前が出ている。
ああ、これから俺は引導を渡されるのかもしれない。
震える指で通話ボタンをスライドした。
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