61 / 86

第61話

『蒼、遅くに悪い。もう寝てたか?』 「ううん。・・・龍ちゃんは今、帰ったの?」 『ああ。蒼からメッセージが入っていたから、またアルファ波の出そうな癒し写真でもついてるかと開いたら、とんだ爆弾が仕込まれてた』 そう言う龍ちゃんの声は冷たくもなく、とげとげもしていない、いつもの穏やかな低音だ。 『爆弾の中身よりも、自分に不利な情報をわざわざ俺に送らなければいけないほど、蒼が精神的に追い詰められるようなことがあったのかって、ちょっと心配になってな』 俺を心配してこんな遅くにわざわざ電話してくれたの? 「俺・・・龍ちゃんに恋人になってもらいたいけど・・・恋人になった龍ちゃんに昔みたいに軽蔑されて棄てられたら、もう立ち直れる気がしなくて・・・怖い。それなら最初にこんな俺はふさわしくないって言ってもらった方がいいのかなって・・・」 『待て待て。色々確認したいポイントがあるけど、まず、昔、俺が軽蔑したっていうのは何のことだ?』 「俺が高校2年の時、龍ちゃんにもっと彼女を大事にしてやれって言われて、俺がキレちゃったこと覚えてる?あの頃の俺はほんとに酷くて、ああ言われるのは当然だった。あの時、龍ちゃんは俺に愛想をつかしただろ? あの日から龍ちゃんは俺の頭撫でてくれなくなって、飛びつくのもダメだって。それにあんまり俺に笑ってくれなくなった。自分のせいだけどすごく悲しかった。 そのまま、アメリカに帰っちゃったから・・・。ずっと龍ちゃんが好きだったけど、それは俺の片思いで、龍ちゃんからは軽蔑されてるし、もう二度と会えないと思っていたから苦しくて苦しくて・・・。相手に龍ちゃんを重ねたら心苦しいから、名前も知らない相手の方が罪悪感を感じずに済んだんだ。でも何度か試してみてもむなしくなるばっかりで、そのうちやめたけど・・・。 きっと龍ちゃんはそんなことするやつ、信じられないだろ?後から知られて、またあの時みたいに背中向けられたら、俺・・・」 こうやってもう一度龍ちゃんに会えるって分かってたら、あんなことしなかったのにな・・・。 今頃、まわってきたアルコールのせいか整然と話せない。 『そうなふうに思っていたのか・・・。お前が向こうに帰って音信不通になってしまったのは俺のせいでもあったんだな』 「え?」 龍ちゃんの言うことがわからない。 『あの時、俺はお前のことを軽蔑したりしていない。むしろ、自分の情けなさに気が付いて、もう蒼の事を想い続けるのはやめようと初恋を強制終了したんだ。それでも、しばらくはお前を見るのが辛かったな。だから、あの日からお前に触れることが出来なくなった。蒼に飛びつかれたらいつもドキドキして大変だったから、もうやめてくれと頼んだんだ。』 「そ・・う・・だったの・・・」 『俺の言葉が足りなくて、蒼は急に俺に突き放されたように感じたんだな。悪かったな。あの頃の俺はガキで、自分の事で精一杯だった』 今更ながら、龍ちゃんに見限られたわけではなかったとわかって、目からポロリと涙がこぼれた。 「それでも・・俺の今までの行いは消えないよ・・・」 それを聞いた龍ちゃんがクスッと笑うのが電話越しに聞こえた。なんで笑われたんだろ?

ともだちにシェアしよう!