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第62話

『俺はずっと、お前はもっと要領のいいやつだと思っていたよ。そつなくなんでもこなし、いつも人に囲まれ注目を浴びて、誰からも愛される。今だって、うちの課長たちの評価もすこぶるいいし、菊川さんも社内でお前が若手の中で注目度ナンバーワンで人気者だとも言っていた。それなのに、こんなに不器用な奴だったとはな』 静かに笑ったあと、龍ちゃんは続けた。 『お前が自分で「懺悔室」というくらいなんだから、とても後悔していることなんだろうが、過去に起きたことはもう変えられないし、その時のお前には必要なことだったんだろう?俺にだって、悔いている過去や失敗はいくらでもある』 「そうなの?」 『当たり前だろう?お前、俺を聖人君子か何かと勘違いしていないか?そうだな・・・蒼だけ恥ずかしい過去を告白するのはフェアじゃないよな。俺の誰にも話したことがない一番恥ずかしい話、教えてやるよ。相当イタいけど引くなよ?』 そう言って龍ちゃんは「天使のあおたん」の話をしてくれた。 『なあ蒼、俺達には幼馴染として長く共有した時間があるし、思い出もたくさんある。でもこうしてお互い知らない面もたくさんあったわけだ。またここで一から、一緒にやっていける相手かお互いを知る努力をしよう。今日、お前が俺に送ってきたメッセージ自体は俺にとっては嬉しい情報じゃなかった』 心臓がズキッと痛んだ。 『でも、黙っていればわからなかったのに、それが出来なかったお前の不器用さは嫌いじゃない。蒼は俺に隠し事をすることを後ろめたく感じたし、ごまかして思い出さないふりだってできたのに何より自分を騙せなかったんだ。お前は誠実な男だよ』 優しい声で続けられた言葉に、胸がいっぱいになった。 「龍ちゃん、俺、龍ちゃんが好きだ」 『ははは、知ってるよ』 「今日、もっと好きになった」 『それは良かった。とんだ変態野郎だったと白い目でみられるかとびびっていたんだ』 そうおどけたふりをして笑う龍ちゃんの優しさが染みた。俺はこの人が好きだ。 急に目の前がボヤけ、また涙が溢れたことを知る。今日の酒は俺を随分泣き上戸にした。 「龍ちゃん、ありがと」 声が震えているのがばれないように、小さな声で言うと 『蒼、おやすみ』 と優しい声が返ってきた。

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