74 / 86

第74話

仕事を終えクライアントの社屋から出てスマホを確認すると、龍ちゃんからメッセージが届いていた。 『晩飯は皆で家で食べることになった。帰る時間がわかったら連絡くれ』とある。 なにかデリバリーでも頼んだのかな?そう思いつつ、あと40分ほどで家に着くと返信した。 鍵は虎牙君に貸しているので、オートロックと玄関ドアを開錠してもらう。 ドアを開けたのは龍ちゃんだった。10日ぶりの龍ちゃんに無性に抱きつきたかったが、リビングから漏れ聞こえる虎牙君と従妹の笑い声にぐっと踏みとどまる。 「龍ちゃん、お帰り」 「お疲れさん」 そう言った龍ちゃんはチラッと背後を確認すると、素早くチュッとキスをした。 わ、びっくりした! 「早く着替えてこい」 頭にポンと手を置いて目尻を下げ、リビングに戻っていく。 ぎゃー、何、今の?イケメン過ぎない!? Tシャツとジーンズに着替えてリビングに入ると、部屋はおいしそうな匂いに包まれていた。 「おう、蒼。お帰り。お疲れさん。」 そういう虎牙君はもう片手に缶ビールを持って、飲んでいた。 普段の倍の大きさに広げられている伸長式のダイニングテーブルには、たくさんの料理が並んでいる。 「わあ、すごい。これどうしたの?」 「いやー、かなえが張り切っちゃってさ」 虎牙君がにやにやしながら言う。 「あ、お帰りなさい。ベ、別に張り切ってない!お留守番の間、暇だったから・・・」 キッチンから皿を持って出てきた従妹が顔を赤くして反論する。 「スーパーであれも、これもってどんどん籠に入れるから。帰り、腕がもげるかと思ったぞ」 「車のキー、渡していけばよかったね」 そう言いながら、そういえばこの子は龍ちゃんの事好きなんじゃないかと以前勘ぐっていたことを思い出した。 夕食は美味しく、楽しかった。よく考えれば、俺の今日初めての食事だ。 虎牙君は上機嫌で、今の八神道場の事、虎牙君の長男が二つ年上の獅央君のところの双子の男の子をいつも追いかけ回していておかしいこと、二人目は女の子で八神先生がデレデレになっていることなどを話してくれた。 「そう言えば、翠はどうしてるんだ?あの子はほんとに綺麗だったよなぁ。運動神経も素晴らしかったけど。龍晟と翠と蒼は子供の頃からずっと一緒で仲良かったよな。あんまり仲がいいから俺はてっきり龍晟と翠は付き合ってると思ってたのに違うって聞いて、驚いたもんな」 その言葉をきっかけに俺たちの子供時代の話になり、その辺りから従妹が話に食いつき始めた。 虎牙君も龍ちゃんと同様、酒には強いようで随分飲んでいるが顔色は変わらない。俺はそこまで強くないから、ボロを出さないように自重していたが、従妹は二人につられるようにグラスを重ねて、こちらは明らかに酔い始めていた。

ともだちにシェアしよう!