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第75話

そして、何故だか俺に絡み始めた。 酔った相手を上手くあしらうのには慣れてるからいいんだけど・・・ なんなんだ?やっぱりこの子は龍ちゃんが好きで、一緒に住んでいる俺の事が気に食わないのだろうか? 「かなえ、酒はもうやめておけ」 虎牙君がグラスを取り上げ、ただの炭酸水のペットボトルを渡す。 「えー、私も明日お休みだもん。まだまだ大丈夫だもん」 「ダメだ。帰れなくなるだろ?」 「ここに泊めてもらえばいいじゃない。明日、みんなの朝ごはん作ってあげるからー」 よし、今のうちに逃げちゃえ。俺は空いた食器をキッチンに下げ、食洗器に並べ始めた。 「蒼、悪いな」 龍ちゃんが空いたグラスをキッチンに運んできてくれた。 「ううん。でも、彼女酔っちゃったね。酔い覚ましにコーヒーでも入れようか?」 「そうだな。俺がやるよ」 龍ちゃんが隣に立ってコーヒーをセットし始める。 ああ、龍ちゃん不足だったから抱きついて龍ちゃんの匂いをかいで充電したい。早くキスもしたいなあ。さっきの不意打ちのチュッもよかったけど、もっと甘々なやつ。 俺もやっぱり酔ってるのかな。今夜はお預けだから我慢しなきゃいけないのに、うずうずしてたまらない。 急に、龍ちゃんがスタスタとキッチンを出ていった。あれ?コーヒーのセット終わってないよ? 「蒼、ちょっと来てくれ。豆のストックどこだっけ?」 龍ちゃんが呼ぶ声が廊下から聞こえる。 豆?廊下へ顔を出すと、龍ちゃんは普段はなかば物置になっている部屋の扉から顔を出してこっちを見ている。そんなところにコーヒー豆のストック置いてないよ。龍ちゃんも実は酔ってる? ドアの中に引っ込んだ龍ちゃんを追って物置部屋に足を踏み入れると、不意にぐいっと手首を引かれ背後でドアがパタンと閉まった。 「龍ちゃん、ここにストックなんて・・」 言いかけた口は龍ちゃんの唇でふさがれ、龍ちゃんの両腕にぎゅっと抱きしめられた。俺も腕を龍ちゃんの背中に回す。 龍ちゃんの舌が入ってきたが、それはセックスの時のように欲にまみれた動きではなく、チロチロと浅く俺の舌先とすり合わせてお互いの存在を確認しあうような仕草で、その唇も優しく俺の唇を食む甘いキスだ。 唇を離した龍ちゃんが俺を抱きしめたまま、ふうーと息を吐いた。 「わるい。蒼不足で我慢できなかった」 そう囁いて、耳にチュッとキスをして離れた。 呆然として龍ちゃんを見上げるとちょっと照れくさそうな顔をしている。 今度は俺から抱きついた。 「龍ちゃん、お帰り。寂しかったよ」 「ああ、俺もだ」 龍ちゃんは今度は俺の額にチュッとキスをすると「さあ行こう」とドアを開けた。 その手にはしっかりコーヒー豆の袋を持っている。最初から持ってきたんだな、この策士め。くつくつと笑いがこみあげてきた。

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