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第76話

龍ちゃんがコーヒーを出し、俺がキッチンをざっと片付けてリビングに戻ると、虎牙君が帰り支度をしているように見える。 「あれ?虎牙君、泊まっていかないの?」 「いや、かなえを家まで連れてかえらないと」 「えー、帰りたくない。龍晟君、泊まってもいいでしょー?蒼さんもいいですよねー?」 従妹は龍ちゃんの腕を引っ張って言う。 「ダメダメ。嫁入り前の子の門限は12時です」 「虎牙君、お父さんみたいなこと言わないでよ」 「俺の娘は門限10時にする予定だから」 「なにそれ、横暴!」 虎牙君は従妹とほんとに親子のようなやり取りをしながら、上着を着るように急かしている。 「悪いな、兄貴。確かに一人で帰すのはちょっと心配だし、俺も飲んじゃったから車で送り届けられない」 「いいんだ。元々こっちも急に押しかけてきたんだし、お前も出張帰りで疲れてるだろ?明日の午前中に叔父さんの道場にお邪魔しようと思ってたし、今夜は叔父さんの家に世話になるよ。蒼もありがとうな。久し振りに話せて楽しかったよ。機会があれば八神道場にも顔出せよ。親父もお袋もきっと喜ぶ」 最後の一言は胸にチクッと来たが、俺も虎牙君に会えてよかった。 従妹をぐずる子供を引っ張るように連れ帰った虎牙君を見送り、 「とんだ珍客だったな」 と言いながら龍ちゃんが部屋に戻る。 急にやっと二人きりになれたことに気づいて、廊下を先に行く龍ちゃんに後ろから抱き着いた。 「おいおい」 「俺も龍ちゃん不足だったんだよー。充電させろー」 歩くのを止めない龍ちゃんにズルズル引きずられながら、甘える。 そのままソファーまで移動して、ソファーに座った龍ちゃんに向かい合って膝にまたがる。龍ちゃんの首に手をかけ、ぐっと顔を近づける。キスのおねだり、わかってくれるよね? 口角を少し上げた龍ちゃんは、キスしてくれずに自分の鼻で俺の鼻をつんつんするだけだ。 なにこれ焦らしプレイ?

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