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第3話

 翌朝、会社に出かける前に寝室に入り、男の様子を見た。泣き腫らした目元、つらそうな寝顔。手にはしっかりと携帯電話を握り締めている。そっとそれを外し、中をのぞいてみた。着信履歴も、送信履歴も、すべて同じ番号。登録されている番号はたったひとつだけ。その相手の電話を待ちながら眠ったのか。松浦はそんな一途な想いを胸に眠っている男をしげしげと眺める。確かに容姿は申し分ない。もし女だったら……などと、思いながら松浦はしばらくそのまま立ちすくんだ。  松浦の部屋を出た後、男はそのまま自分の住むアパートの一室に戻った。目覚めると松浦はいなくなっていた。仕事に行ったのだろう。確か、恋人に振られた、と言っていたな、とぼんやりと窓の外を見つめる。ぶっきらぼうで、不遜そうで、けれど、本当はやさしくて、顔もよくて、都内の高級マンションに住んでいて、それでも振られてしまうとは。不謹慎だ、と思いながら、男は少しだけ、笑ってしまった。そして、自分の現実を思い出して、暗い気分になった。  大学へ行けば彼と会ってしまう。今はとてもつらい。会わせる顔がなかった。彼を中心に回っていた世界が急になくなり、大きな闇の中に放り出されたような孤独感と絶望感だけが満ちあふれてきた。涙が止まらない。けれど、声を上げることもできず、ただ、ひたすら、静かに泣き続けるしかなかった。 ──本当に……? 松浦さん……。本当に、この気持ちが薄れていくことなどあるの……?  男は暮れて赤く染まっていく空をじっと眺め続けた。

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