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第5話

昼休み中の学食は混雑していた。室内の空調機はまだ梅雨前なのに思い切り稼働している。 長テーブルの一番隅を陣取った俺たちは、トレーに乗せられた昼食を食べようとしていた。 「いやー…お騒がせしました。もうすっかり回復したよ」 「元気そうで安心した。それにしても…」 そこまで言って俺は牛尾の前に置かれたトレーに目をやった。皿の上にメンチカツが乗せられている。馬瀬がいつも履いてるバッシュと似たような大きさだ。小柄な牛尾が平らげられるのか心配になるほどのスケール。 「いくら回復したからって、そんなモン食べられるのかよ?」 「余裕余裕」 3人の会話が暫し途絶えた。 皆、同じようなペースで昼食を食べていた。上品さとはかけ離れた光景。"食事"より"補給"といった表現がピッタリだ。 完食した俺と馬瀬は、後半戦に差し掛かった牛尾を待っていた。この調子なら本当に完食しそうだ。 彼の口に絶え間なくメンチカツが運ばれていくのをぼんやりと観察していると、彼が急にピタリと動きを止めた。 「え、もう限界?」 「いや、急に思い出したことがあったんだ。大して重要な話じゃないんだけど、2人に言っとこうと思って」 牛尾は食べるペースを少し遅めながら会話を続けた。 「保険の先生、意外と怖くなかったよ。むしろいいかもしれない。あんなに心配してたのが馬鹿馬鹿しく感じたくらいだよ」 「へえ、良かったな。お前、始業式の日にメガネせんせーのことビビってたもんな」 馬瀬が少しホッとした様子で呟く。彼も俺と同じように、不安そうにしていた牛尾を気にかけていたようだ。 いつの間にかメンチカツを平らげ、水を飲んでいる牛尾が言った。 「あとさ、先生が犬飼のこと話してた」 「えっ、俺のこと?何でだよ」 この話題に俺の名前が上がると全く予想していなかったので、声がひっくり返った。 「犬飼が帰った後に先生が『彼、普段からあんな感じなの?』って言ったっけな。どういう意味だと思う?僕はよく分からなかったから上手く返せなかったよ」 「…俺にも分からん」 すっかり軽くなったトレーを返却口に置くために俺たちは立ち上がった。 「あ、でも悪口って感じじゃなかったよ。むしろ嬉しそうだった気がする…」 口数が急に減った俺に気遣ったのか、牛尾は早口で言った。 「曖昧な言い方だなあ」 馬瀬が呆れたような顔をした。紙コップをゴミ箱に放る。ナイスシュート。 「だってあの先生、全然表情が変わらないんだよ。分かりにくいんだ」 2人がああだこうだ言い合っている間、俺は時計を見つめていた。 数時間後に俺は、保健室にいるんだ。今日の仕事内容は何だろう。 先生の言う「普段からあんな感じの俺」が分からないまま迎える放課後が少し憂鬱でもあり、楽しみでもあった。

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