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第7話
最近分かったことがある。俺は思っていることが表情に出やすい。
牛尾に「何か良いことあった?」と尋ねらるまで自分の口角が上がっていることに気付かなかった。
「別に普通だよ」
俺は無意識に緩んでいた表情を引き締め、再びペンを握りなおした。
「へえ、そっか。…それより犬飼、この問題の解き方はこれで合ってる?」
「ああ、その公式であってる」
「オッケー。また分からない所あったら聞くかも」
「おう」
俺たちは図書室で翌日に迫った定期考査に向けて勉強していた。
辺りにはノートと睨み合いをしている生徒が沢山いる。少し張り詰めた雰囲気が室内を包んでいた。
いつもなら閑散とした図書室も、考査前になると満員になる。普段から使用している読書家の生徒にとってはいい迷惑だろう。
牛尾が苦手な数学が俺は得意だったので、よく教えていた。彼曰く、俺の説明は分かりやすいそうだ。褒められると悪い気はしない。だから俺は喜んで彼に協力している。
「ホント犬飼がいてくれてよかったよ。一人で勉強してたら赤点確定だったもん」
「そう言ってもらえるとやる気出るな」
俺はそう言いながらふと窓を見た。もう空が赤くなっていた。
「そろそろ寮に帰らないとな。勉強は向こうでも出来る」
「そうだね。キリがいい所まで…」
牛尾が言葉の途中でアクビをした。そういえば、さっきから彼の表情がボンヤリしている気がする。
「その様子だと最近しっかり寝てないだろ?頑張るのもいいけど無理するなよ」
「明日が本番だからね。ここを乗り越えちゃえば平気だよ。大丈夫…」
またアクビ。俺まで眠くなりそうだ。
♢♢♢
考査が終わった瞬間の解放感が好きだ。
様々な重圧や制約、胸の支えが綺麗さっぱり消える。目の前にあるのは自由。
「やっぱりおかしいと思わねえか?!異常だよ、異常」
馬瀬が唇を尖らせながら言った。ブツクサと不満を漏らす。そしてそのまま続ける。
「しかも居眠りしたらどやされるんだろ?知るかよ。オレは堂々と眠ってやる」
「馬瀬は考査後じゃなくても集会はいつも寝てるじゃん」
牛尾はやれやれ、といった調子で言う。
俺は考査後に行われる全校集会のことを考えると、解放感を忘れそうになる。退屈と眠気との戦い。大体敗北している俺と馬瀬は教師から目をつけられていた。
集会中に教師達の視線を痛いほど感じる。徹底的にマークされているのだ。首が傾いた瞬間、目つきが鋭くなるのが手に取るように分かる。
そんな環境でイビキをかきながら爆睡する馬瀬の神経には呆れを通り越して尊敬する。
♢♢♢
この集会がただ退屈なだけだったら良かったのに、なんて思うなんて予想もつかなかった。
周囲の騒めきが遠く感じる。
集会が終わり、最後の挨拶をするために立ち上がった瞬間の出来事だった。
牛尾が倒れた。俺の目の前で。
表情はグッタリとしており、死んだようにピクリとも動かない。
積み重なる睡眠不足と蒸し暑い体育館。体調を崩すに決まっている。
担架に乗せられた牛尾は、いつもより小さく感じた。
─牛尾くんの荷物を保健室に運んで。
担任教師に指示されるまで、俺は動けなかった。
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