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裁判記録:だから僕は――③
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就業時間5分前に、笹木の席に赴いた。
「なぁなぁ、仕事終わった?」
ぽんっと優しく肩を叩きながら、顔を覗き込んでやった。途端にうっすらと頬を染める後輩の姿に、自然と笑みが浮かんでしまう。
自分の美貌は、男女問わずに効くことが分っているからこそ、ここぞとばかりに有効活用すべく、タイミングよく使った。こうもあからさまに頬を染められると、嬉しくてならない。
「香坂先輩、お疲れ様です……。あの、顔が近いですけど」
小さな目を瞬かせながら、くっと顎を引き、おずおずと僕を見上げた。
短く刈り上げられた髪型は、笹木の清潔感をより一層引き立てていて、自分よりも少しだけ大きい躰からは、適度に甘く爽やかでセクシーな香りが漂っていたので、くんくん嗅いでやる。
「だーって笹木から、いいニオイがしていたから。お前、こんなのつけていたっけ?」
ニヤニヤしながら肘で突いてやると、忙しなく視線を彷徨わせた。
「からかうの、やめてくださいよ。困ります」
「からかってないって。それって、彼女に貰ったものなんだろ? 青春してるねー、笹木ってば」
「……そうですよ。まったく、香坂先輩には敵わないなぁ。あざとすぎます」
「そんで、いいニオイをぷんぷんさせながら、仕事は無事に終わったのか?」
キツいニオイに鼻がやられそうになったので、さりげなく躰を離したら、やっとこっちを向いた。
「ええ、大層仕事が捗りましたよ。何か御用ですか?」
「明日休みだしさ、一緒に呑まない?」
断れないようにふたたび顔を近づけて、目力を強めるようにじっと見つめてやる。
「別にいいですよ、暇ですし。てか先輩にその顔で迫られたら、断れる人がいないと思います」
「分ってて、わざとやってるんだけど?」
「誰かに似てますよね、えーっと……」
顎に手を当てて考え出す笹木に、ヒントを与えてやろうと思った。
「僕のハートをぎゅっと鷲掴み! 四ツ矢サイダー!!!」
ヤツのマネして爽やかに決めセリフを言い、ふわりと柔らかく微笑んでやる。
「すっげ!! そっくりです、笑顔にやられそう……」
「あはは、ウケてくれて何より。そんで笹木の家で宅呑みしたいんだけど、大丈夫か?」
「はぁ、多少散らかってますがいいですよ」
「酒は僕が奢るからさ。家で彼女の話を、たくさん聞かせてくれよ。彼女のできるコツとかさ」
上手いこと約束を取り付け、まんまと笹木の家に上がることに成功した。
夜は長い――これからが楽しみだ……。
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