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裁判記録:だから僕は――④

***  一緒に肩を並べ、笹木の家に向かう途中でコンビニに寄って、それぞれ好きな物を買った。 「香坂先輩とふたりで呑むの、はじめてですね。宴会のときは、なかなか傍に寄ることができなかったから、結構嬉しいかも」 「確かに! 僕の周りはいっつも女子社員がいて、誰も近づけない状態だったしな」 「そうなんですよ。話したいことがあっても、何だか近づけない雰囲気があったし。あれだけモテるのに、彼女がいないのが不思議ですよ」  そんな他愛のない会話をしながら、ようやく笹木の自宅があるマンションに到着。エレベーターに乗り込むと、15階のボタンを押す。 「少しだけ散らかってますけど、勘弁してくださいね」 「彼女が来たら、いろいろ言われたりしないのか?」 「あー……まぁ。しょうがないねと苦笑いされてます」  後頭部を掻きながら肩を竦める笹木が、結構可愛いなぁと思ってしまった。自分にはない、そういう素直なところは恨めしくなる。  程なくして15階に到着、一番奥にある扉まで連れられた。笹木が手早く鍵を開けて、中に誘ってくれる。 「あーあ、香坂先輩が来るなら、もっと綺麗にしておけば良かった……」 「何を今更。言うほど酷くないじゃないか。実際、僕の家の方が雑然としているよ」  目の前に広がるワンルーム。最初に目に付いたのは、大きな本棚が3つも備えつけられていることだった。読書家なのは、意外な発見だな。 「適当に座っててください、今準備するんで」 「準備とかいらないから。買ったヤツを、ぱぱっと開けちゃえばいいだろ、ほら座れって」  キッチンに行こうとした笹木の腕を引っ張り、グレーのソファにふたり仲良く並んで座った。 「つまみを摘むぅ♪ ほらほら、笹木も手伝えって。そっちの開けてくれ」 「あ、はいっ。すみません、香坂先輩の流れるような動きに、つい見とれてしまって。するめそーめんを開けるっと」 「僕の動きって、何か変?」  ビニール袋の中からビールを数本取り出して、強引に笹木に手渡しながら訊ねてみる。 「えっと、他の人にはない独特の間っていうか、惹きつけられる、見えない何かがあるっていうか。指先も俺とは違って、すらっとしていて綺麗だし」  あたふたしながら言う笹木の手から、ビールを奪ってやった。 「褒めてくれた礼として、この綺麗な指で開けてやるよ」  ぷしゅっと音をさせてリングプルを開けたら、少しだけ泡が出てくる。奪ったときに、揺らしてしまったせいだろう。 「ありがとうございます……」 「いいっていいって。なんだかんだ、いつも仕事のフォローしてもらってるし、日頃の礼もちゃかり兼ねているからさ。さぁて、笹木の明るい未来に向かって、かんぱーいっ!」 「乾杯です」  かちんと缶を鳴らして乾杯、ぐびぐびとビールを流し込んだ。 (――笹木の明るい未来を、彼女ごと黒く染めてやるけどね)  さてさてどのタイミングで、押し倒してやろうか……。できることなら絶好のタイミングでそれを、ぱーっと発動させたいものだが。 「なぁ笹木って、どこで彼女を捕まえたんだ?」  まずは、敵の情報を仕入れなければ。落し込むのに、それなりのことを知っておかなければ、対処のしようがないから。 「このことナイショにしてくださいよ、会社です」 「マジで!? 僕の知ってる人か? 誰なんだよ、おい」 「これ以上は、教えることができません。どんなに頼まれてもダメです」  必死に追いすがる僕を完全無視して、笹木は美味しそうにビールを呑む。 「なんだよ、冷たいな。もしかして、大っぴらにできない相手なのかよ。カレシ持ちとか、人の奥さんだったり」 「まぁ当たらずといえども、遠からずって感じですね。年上で、結構可愛い人ですよ」 (顔に似合わず、コイツやるな――) 「そっか、笹木の好みは年上だったのか。見た目以上に、甘えただもんな」 「すみませんね、甘えたで。どうしても相手に、包容力を求めちゃうんです」  ――ほうほう、可愛がられたいということか。 「そういう香坂先輩の好みは、どんなコなんですか? 理想が高すぎて、彼女ができないんじゃ?」  いつもより饒舌に喋る笹木に、苦笑いするしかない。少ししか呑んでないのに、もう酔っ払ったのか。 「僕は、笹木みたいな感じが好みだけど」 「(゚ー゚*?)はい?」  素早く顔を寄せて、唇に触れるだけのキスをしてやった。 「ななななっ、何やってですか!? 酔っ払ったからって、こんなことするなんて」 「意外と僕、包容力はある方だよ。試してみないか?」  しれっとしながら言ってやると、音が鳴りそうな勢いで、首をぶんぶん横に振りまくる。 「だったら――そうだな、お前の好きなアイツ。葩御 稜に迫られてると思い込めば?」 「そんなの……」 「笹木が秘密を教えてくれたから、僕の秘密も教えてあげる。実は、葩御 稜の従兄なんだ。血の繋がりがあるから、顔が似ているんだよ」  両手でそっと笹木の頬を包み込み、顔を近づけた。 「それに男とヤるなんて、浮気のカウントに入らない。安心して身を任せるといいって」  にこやかに笑いながら手に持っていた缶ビールをテーブルに置き、笹木の持ってるものも同じように置いてやった。 「――身を任せるぅっ!?」  目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべた笹木の唇に目がけて、噛みつくようなキスをする。  罪を犯すなら、ひとりよりふたりがいい。同じ罪を共有することによって、ふたりを縛り付ける材料になる。しかもそれが、すごくいい刺激にもなるんだ。最高じゃないか。 「ンンッ……やっ、香坂せ、んぱ――」 「あっ、こら暴れんなって。だからノンケは面倒くさいんだ」  キスに酔いしれていたいというのに、こんな雰囲気じゃゆっくりと堪能できやしない。  チッと舌打ちしながら笹木のネクタイを手早く外し、抵抗できないように後ろ手に縛り上げる。そして仰向けに戻してみたら、小さい目から涙を溢している姿が目に留まった。 「いいね、その顔。ゾクゾクしてくるよ、マジで。それでは笹木の躰をご開帳ぅ♪」  ワイシャツのボタンを2,3個外してから、両手で一気に引き裂いてみたら、浅黒い肌が顔を覗かせた。弾け飛んだボタンが、音もなくフローリングの床を四方に転がっていく。  見慣れたいつもの光景に口元を緩ませつつ、スラックスを脱がせようとベルトに手をかけたとき。 「やめてくださいっ! こんなの……俺は香坂先輩を」 「何だよ、うっさいな。僕を軽蔑したいなら、勝手にすればいい。そんな軽蔑する相手に、これから感じさせられることを、思いっきりされちゃうけどね」 「うっ……」  急に大人しくなったお蔭で、するっとスラックスを脱がせることに成功。破れたワイシャツをそのまま身にまとった、トランクス姿の笹木は下唇を噛みしめ、恨めしげに僕を見上げた。 「僕に彼女ができないのは、こういうワケだよ。イヤというほど分かっただろ? それとも何か、この行為に理由が必要か?」 「り、ゆぅ……?」  力なく動く唇に、触れそうで触れない位置で、ぴたりと止まってあげる。 「ちょっと魔がさしたと言ったらお前がキズつくだろうから、愛していると言ってやるよ。笹木を愛してる……」  さっきしてやったキスとは違う、優しいキスからスタートして、ゆっくりと味わいながら感じさせた。 「うっ……あぁ、ぅっ――」  より丁寧に、口内を責めてあげる。逃げようとする舌を絡めて、くちゅくちゅと音をたてて吸い上げてから、顔の角度を変えた。  下唇を食みながら自分のネクタイを解き、ワイシャツのボタンも外して手早く脱いだ。 「はぁはぁ、やめ、も……イヤ、だ」 「止めてくれっていう割には、しっかり感じているじゃないか。ほら、ここ」  耳元で囁いて、その部分に直に触れてやる。 「うっ!?」 「僕にキスされて、こんな風になるなんて結構エロいんだね、笹木ってば」 「ちがっ、これは、ひゃっ!?」  ふふっと笑って吐息をかけてやり、耳のふちを舌でなぞる様に舐めあげた。 「だっ、ああぁ…それ、くすぐった、いですって。……やっ…はぁ、あっ……ンンッ!」  過剰に反応してくれた笹木にサービスすべく、耳の穴に舌をねじ込み、スクリューのように動かしてやる。 「…っん…う、あ…そこばっかり……っ、やめっ!」 「じゃあ、どこがいいんだよ、お前は?」  右手で笹木自身を扱き上げ、左手で胸の突起物を摘むようにこねくり回した。他にも、敏感な部分を容赦なく責め立ててやる。 「っや…っは、そ、んなと、こ触らない…んぁ、やだっ……」  はじめてということを考慮して、この夜は繋がることなく、散々笹木の躰をオモチャにした。しっかりと快感を与え続けて、淫靡な夜は終了したのだった。

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