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裁判記録:だから僕は――⑥

***  次の日、仕事は休みだったが、月曜の朝早々に隣町へと出張の予定だった。そのため自宅から出発してやろうと考え、忘れていた書類を取りに会社に出向いた。 「……あれ、安田課長? おはようございます」 「その声は香坂か。休みなのに真面目だな」  挨拶をすっ飛ばし、屈んでいたデスクの下から、ひょっこりと顔を出してくれる。その場所は安田課長のデスクではなく、最近事故で亡くなった下田先輩のところだった。 「遺品の整理ですか?」  傍に寄って、安田課長の様子を覗き見てみる。  下田先輩が亡くなってから、デスクの上に違う花が一輪だけ、毎日供えられていた。きっと、先輩を慕う女子社員がしているんだろう。ちょっと抜けたところがあったけど、場の雰囲気を盛り上げるムードメーカーだった。 「亡くなってそろそろ1週間経つし、荷物の整理をして、ご家族に送ってやらなきゃならないだろ。平日にそんなことをしたら、他の社員が気になるだろうから、今やっているんだ」 「何か、手伝いましょうか?」 「いいや、もうすぐ終わるから大丈夫だ。それよりも、自分の用事を済ませたらどうだ?」  足元にまとめて置いてあるダンボールの蓋を閉じながら、僕の顔を見上げる安田課長。どことなく悲しげに見えるのは、気のせいだろうか? 「お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」 「そういやお前……、昨日笹木と一緒に帰っていたみたいだが」  背中を向けた途端に話しかけられたので、顔だけで振り向いた。 「よくご存知ですね。そんなに目立ってました?」 「普段、仕事でも大して接触がないお前たちが、並んで歩いていたからな。たまたま目に付いただけだ」 「昨日あのあと、笹木の家で呑んだんです。彼女の話をされて、あてられちゃいました」 「へえ。それだけか?」  涼しげな一重瞼を細め、意味ありげに見つめる視線に、首を傾げるしかない。 「それだけって、あの……何もないですけど」 「済まない。香坂の雰囲気が、いつもと違って見えたものだから。忘れてくれ」 「はあ――?」  安田課長の視線を振り切るべく、さっさと自分のデスクに向かい、必要な書類を手に入れて、さっさと部署を後にした。  自分の身に、変化があるとは思えないのに指摘されてしまったことで、違和感を覚えずにはいられなかった。

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