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裁判記録:だから僕は――⑦

*** 「やれやれ、カゲナリ……。お前の後輩たちは、随分と変わったヤツばかりだな」  足元に置いてあったダンボール2個を、自分のデスクの上に置き、宅急便の送り状を貼り付けて、不備がないかの最終チェックをした。 「お前の荷物がなくなった以上、これはもう用済みかもしれないが――」  カゲナリのデスクにあった花瓶を手に取り、中の水を変えて、持ってきていた1輪のコスモスを挿す。 「口をぽかんと開けて、あどけない顔で眠っていたお前の肩に寄り添ったこの間が、随分と昔に感じてしまうよ」  ゆっくりと目を閉じ、胸の中にいるカゲナリを思い出す。人肌恋しくないといえば嘘になるが。  思い出しながらも先ほど感じた、香坂の違和感について考える。  どこか嫌な光を目に宿す香坂――バカ正直な俺様江藤とは違い、人をたぶらかしてかしずかせる俺様が、香坂なんだ。 「私が悪魔なら、アイツはしょせん小悪魔レベルだろうな」  何かをしでかしたとき、その成功に酔いしれ、高揚感を雰囲気に漂わせた結果、他人に悟られている内は、まだまだなんだよ。  コスモスの花びらにそっと触れてから、カゲナリの遺品の入ったダンボールを抱え、静かに部署を後にした。  自分のできる最後の仕事を考えつつ、ダンボールの軽さに苦笑するしかない。 「カゲナリ、私がする仕事をまるで楽させているみたいだな。年のことを考えてくれたのか? 最後の最期まで、出来のいい部下を演じてくれて」  ――自分の最期が、分かるワケないのに……。  都合の良すぎる自分の話にため息をつき、前を見据えながら、真っ直ぐ歩いて帰った。

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