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裁判記録:僕は有罪(ギルティ)

 午前中に同僚と一緒に隣町に出張し、手早く仕事を終えた。その後、昼飯を食べてから移動。会社に戻った時間は、午後3時過ぎになってしまった。  部署に入り、安田課長に事後報告をしてから自分のデスクに戻る。  亡くなった下田先輩のデスクの隣で、一生懸命に仕事をしている笹木の姿がふと目に留まった。 「ただいま、笹木」  言いながらワイシャツの襟首を掴み、くっと上に引っ張ってやる。 「あ? 香坂先輩お帰りなさい、です」 「僕がつけたキスマーク、ちょっとだけ見えていたぞ。彼女に見つかったら、ちょっとマズイんじゃないか?」  半日以上この姿を、会社中に晒したことになったな。 「えぇっ!? そんな……」 「お前、彼女いるからって、だらけ過ぎなんじゃない? ネクタイを結ぶとき、鏡を見てないだろ?」 「はぁ。そうですね」  そういう、だらしないところが可愛いとか何とか、言われちゃうのかもしれないが――。 「上から見て結ぶのと鏡を見ながら結ぶのとじゃ、できあがりが全然違うんだよ。笹木のは結ぶというよりも、縛り付けてる感じだな」  てきぱきと外して、少しオシャレな結び方をしてやる。 「結ぶ工程をちょっと変えるだけでも、見た目が随分と変わるものなんだ。あとでトイレに行ったときに、鏡を見てみろ。エルドリッジ・ノットっていう、結び方をしておいた」 「えっ、エルド…?」 「エルドリッジ・ノット。メモしておけって。あとでネットで調べて、結べるようにしておけよ」  ひーっと言いながら必死にメモる笹木を横目に、自分の席に座った。  さて、と――笹木の彼女は、社内のどこにいるんだろうか。慌てふためくヤツの姿は、滑稽そのものだ。もっともっと、落とし込んでやる。楽しませてもらうよ、笹木くん。

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