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裁判記録:僕は有罪(ギルティ)⑦

***  和やかな食卓風景――とは程遠い。長方形のダイニングテーブルの幅の部分を、僕と安田課長が向かい合う形で座り、その間を嬉しそうな顔の笹木が陣取っていた。  距離があるとはいえ目の前にいるせいで、視線のやり場に困る――だからといって笹木に目線を向けて逃げるのも、かなり印象が悪いだろう。 「へぇ、手が込んだと言っただけのことはある。下手な店の物よりも美味い」 「本当ですか! 嬉しいなぁ。あの、香坂先輩のお口に合いそう?」 「……う、うん。美味い、よ」  さっきから、冷や汗がダラダラ状態で躰がおかしい。なので味なんて分かりゃしない。しかも――。 「ねぇ安田課長。香坂先輩が書いたメモ、どうしてテーブルに置いておくんですか?」  この間の物とさっき掘り出した物2枚を、ご丁寧に自分の目の前に堂々と置いているのだ。それらを見せつけながら、平気でカレーを食べられる神経が分からない。  仕事ではこの人に滅多に叱られることはないが、他のヤツを指導するときは、結構ネチネチしていたっけ。 「香坂がどんなことを考えてこれを書いたのか、食べながら考察している最中」 「香坂先輩は、どうしてこんなものを書いたんですか?」 「おいおい、私が考えてる最中だと言ったのに、答えを聞くヤツがあるか。まったく……」  何なんだ、無言で尋問されているような感じは。あー……居辛い、さっさと食べて帰りたい。  そう思っているのにひとくち食べては、ため息をついているので、いっこうに進まなかった。 「なぁ香坂」  唐突に呼ばれて、がしゃんと皿にスプーンをぶつける失態をおかした。慌てて顔を上げた僕を、やけに真剣みを帯びた眼差しが捕らえる。 「っ……。はい、何でしょうか?」  自然と震える躰を抑えるべく、力を入れてみたけど収まる気配がない。 「こんなことをして、お前は面白いのか?」  わざわざメモを指差し訊ねてくる安田課長に、顔を引きつらせた。突きつけられる自分が残した証拠に、被害者である笹木が傍にいて、この感じはそう。  ――まるで公開裁判みたいだ―― 「あ、の……面白いとか、そんなんじゃなくて、ですね……」  真実を言ったら、罪状を告げられるのだろうか? 無実はありえない。実際僕は、このふたりを陥れようとした。僕は有罪(ギルティ)なんだから――。 「安田課長、その話は食事が終わってからでいいですか? せっかくのカレーが冷めちゃいます」  美味しそうにカレーをぱくぱくと口に運ぶ笹木が、助け舟を出してくれた。 「お前は、気にならないのか。このメモの意味を?」 「まぁ、何となくですけどね。本当のことを知るのはカレー食べ終わってからでも、問題はないでしょう?」  安田課長に食べろと促し、膝の上に置いていた震える僕の左手を、そっと握りしめてくる。 「お代わりあるんで、遠慮せずに食べてください」 「あ、うん……」 「香坂先輩のことをずっと見てたから、俺は分かっているつもりです」  優しく声かけするなり握りしめた左手を更に握ってから、すっと離した。  笹木から与えられたあたたかさのお蔭からか、不思議と震えが止まった。それだけじゃなく躰が熱くなるのは、どうしてなんだろうか――?

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