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裁判記録:僕は有罪(ギルティ)⑦
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和やかな食卓風景――とは程遠い。長方形のダイニングテーブルの幅の部分を、僕と安田課長が向かい合う形で座り、その間を嬉しそうな顔の笹木が陣取っていた。
距離があるとはいえ目の前にいるせいで、視線のやり場に困る――だからといって笹木に目線を向けて逃げるのも、かなり印象が悪いだろう。
「へぇ、手が込んだと言っただけのことはある。下手な店の物よりも美味い」
「本当ですか! 嬉しいなぁ。あの、香坂先輩のお口に合いそう?」
「……う、うん。美味い、よ」
さっきから、冷や汗がダラダラ状態で躰がおかしい。なので味なんて分かりゃしない。しかも――。
「ねぇ安田課長。香坂先輩が書いたメモ、どうしてテーブルに置いておくんですか?」
この間の物とさっき掘り出した物2枚を、ご丁寧に自分の目の前に堂々と置いているのだ。それらを見せつけながら、平気でカレーを食べられる神経が分からない。
仕事ではこの人に滅多に叱られることはないが、他のヤツを指導するときは、結構ネチネチしていたっけ。
「香坂がどんなことを考えてこれを書いたのか、食べながら考察している最中」
「香坂先輩は、どうしてこんなものを書いたんですか?」
「おいおい、私が考えてる最中だと言ったのに、答えを聞くヤツがあるか。まったく……」
何なんだ、無言で尋問されているような感じは。あー……居辛い、さっさと食べて帰りたい。
そう思っているのにひとくち食べては、ため息をついているので、いっこうに進まなかった。
「なぁ香坂」
唐突に呼ばれて、がしゃんと皿にスプーンをぶつける失態をおかした。慌てて顔を上げた僕を、やけに真剣みを帯びた眼差しが捕らえる。
「っ……。はい、何でしょうか?」
自然と震える躰を抑えるべく、力を入れてみたけど収まる気配がない。
「こんなことをして、お前は面白いのか?」
わざわざメモを指差し訊ねてくる安田課長に、顔を引きつらせた。突きつけられる自分が残した証拠に、被害者である笹木が傍にいて、この感じはそう。
――まるで公開裁判みたいだ――
「あ、の……面白いとか、そんなんじゃなくて、ですね……」
真実を言ったら、罪状を告げられるのだろうか? 無実はありえない。実際僕は、このふたりを陥れようとした。僕は有罪 なんだから――。
「安田課長、その話は食事が終わってからでいいですか? せっかくのカレーが冷めちゃいます」
美味しそうにカレーをぱくぱくと口に運ぶ笹木が、助け舟を出してくれた。
「お前は、気にならないのか。このメモの意味を?」
「まぁ、何となくですけどね。本当のことを知るのはカレー食べ終わってからでも、問題はないでしょう?」
安田課長に食べろと促し、膝の上に置いていた震える僕の左手を、そっと握りしめてくる。
「お代わりあるんで、遠慮せずに食べてください」
「あ、うん……」
「香坂先輩のことをずっと見てたから、俺は分かっているつもりです」
優しく声かけするなり握りしめた左手を更に握ってから、すっと離した。
笹木から与えられたあたたかさのお蔭からか、不思議と震えが止まった。それだけじゃなく躰が熱くなるのは、どうしてなんだろうか――?
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