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約束

 整理して、床に落ちてたものは減ったけど、倉庫の中にはホコリが舞ってるのが見える。  でも掃除機とか無いし、窓は高いとこにしか無いから空気の入れ換えできないし、水使えないから拭き掃除も出来ない。  てっちゃんはときどきケホケホ咳き込んだので、ススムは水筒の麦茶をあげて、リュックから出したタオルをマスクみたいにまき付け、てっちゃんの鼻と口を保護した。  ススムが「だいぶキレイになったね」と言うと、てっちゃんは「腹減ってきた」と眉寄せた。  おにぎりと卵焼きがあるから一緒に食べようと誘うと、ぱあっと笑顔になったので、ススムも嬉しくなった。  座って分けてたら、桑田さんが戻って来て「休憩かい?」なんて言って車から飲み物とかお菓子とか持って来て、みんなで食べながら話をした。  この倉庫はおじいさんが作ったトコだけど何十年も使ってなくて、町から『どうにかしてくれ』とか言われてた。処分する予定だったけど、てっちゃんは、ちっちゃいときから聞いてた場所で、色んな写真とか見せられてて、ココにたくさんおじいさんの思い出あるの知ってたから、無くなると「死んだじいちゃんの気持ちも無くなるみてえ」に思って「行きたい」と言った。 「オレが使うようになれば、要らないトコじゃなくなるでしょ?」  それでお母さんとおばあちゃんと一緒に来たんだって。  桑田さんは、ココの状態を確認するのについてきたんだけど、門の鍵を開けて一目見たとき、てっちゃんは「がっかりした」んだって。 「おじいちゃんから聞いてた話とゼンゼン違ったし、こんなボロいと思わなかったし、来るのすっごく時間かかったし、やっぱ要らねえかなって思った。けど、……気に入ったかも」  そう言って、てっちゃんはニイッと笑った。 「残してってパパに頼むよ」 「ホントに? ココ無くならない?」 「オレにまかせろ」  ススムはものすごくホッとした。 「特別にココ入るの許してやる。おまえだけだぞ」  これからも秘密基地でイイって、てっちゃんが言ったので、やっぱりススムはホッとした。 「つうかさあ、どうやって入った? 鍵かかってただろ」  ネットが破れてることから入って、踏み台作って台所の窓から入ったことを教える。 「そんなのあった? 見落としたかなあ」  首傾げた桑田さんに、ススムがやっと通れるくらいの破れ目で、バレないように草とかで隠してると言うと苦笑された。 「どっちにしろフェンス全部補修は難しいから、窓に面格子でも付けるよ」 「つうか隠してたって、やっぱヤバいことだって分かってたんじゃねーの?」  ニヤニヤつっこまれ、「秘密基地だから。内緒だから」と言い訳すると、てっちゃんは爆笑した。  恥ずかしかったけど、てっちゃんの、すごく楽しそうに笑ってる顔は、なぜだかススムの心臓をドキドキさせた。けどぜんぜんイヤじゃ無くて、ていうかすごく嬉しい気分になって、楽しくて……ススムはずっと話していたいと思っていた。  会ったばかりなのに、ススムはてっちゃんが大好きになっていたのだ。  やがて日の傾く時間となり、倉庫の中は、かなりきれいになってきた。でもやっぱり埃っぽいし、たった一日ですっかりキレイになんて出来ない。 「明日もやるかあ。おまえ逃げるなよ! 絶対来いよ!」  やっぱり偉そうにてっちゃんが言い、ススムはすごく嬉しい気分になって、絶対来ると約束した。  次の日は桑田さんも色々道具持って来たし、水道も使えるようにしてくれて、キレイに掃除できた。  そして色んな機械の使い方とか教えてもらって、すっごいテンション上がった。 「危ないから、大人がいないときは使っちゃダメだよ」 「はい!」  元気いっぱいにススムは返事した。 「まあ、普段は電気使えないようにしちゃうから大丈夫だと思うけど」 「それじゃあオレが帰ったら、いつも暗いってこと?」  てっちゃんが不満そうに言う。「いいよ」と言いながら、そうか、てっちゃんは帰っちゃうんだとか思って、すごく寂しくなったススムに、てっちゃんは言った。 「オレ明日に帰るからさ、ススム、ココに泊まっちゃえよ」  ドキンとした。 「い、いいの」 「当たり前じゃん! 親に言ってこいよ! ね、桑田さん、寝袋とかあるよね」 「あるけど、ホテルにお母さんとおばあさんがいるのに。それにご飯はどうするの」 「ママとかおばあちゃんはいつも一緒なんだから良いよ! それにバーベキューやろうって言ってたじゃん! ココでやればイイじゃん!」  てっちゃんが頑張り、桑田さんは、ため息混じりにつきあってくれて、その日から二日間、そこに泊まり込んだ。  門のトコから入り口までの草刈りしたり、ススムが今まで作ったもの見せたり、なにしてても楽しい。  てっちゃんちとススムんちの親も来て、親たちが二階の部屋の掃除して、布団も用意してくれた。  夜はバーベキューして、花火もして。親とか帰って、二人になったら、てっちゃんが暗いとこ怖いって分かったから、ススムが「だいじょうぶ、オレがいるよ」と言ったら 「ばっか! 平気だよっ!」  と怒ったけど、ススムの服をずっと掴んでた。一緒に二階の部屋に行って、てっちゃんは鞄からいくつも箱を出した。 「特別に見せてやる」  いままで作ったプラモだった。  細かいトコまでちゃんとしてて、色もキレイに塗ってあって、すっごく上手で「すごいね! オレこんなうまく出来てるの初めて見た!」と感心したら、「まあな」なんて嬉しそうに威張った。 「ウチに、もっとスゲエのあるんだけどな」 「ほんとう?」 「スゲエの持って来てやるから、ススムももっとスゲエの作っとけよ」  絶対だぞ! と約束して、並んだ布団で眠った。  すやすや寝てるてっちゃんの顔を見ながら、明日いなくなると思って、すごく悲しくなって、気がついたら涙が出てた。  ぐしぐし顔を擦りながら、てっちゃんの手を握ったら少し平気になって、そのまま眠ってしまった。  翌日てっちゃんは帰ったけど、それから中学二年まで、毎年夏休みにやって来た。  そしてお互い、一年間で頑張ったものを見せ合ったのだった。

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