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神様は赦してくれる

麗彪(よしとら)side】 美月(みつき)を自分の部屋に入れて、親父と莎草(ささめ)から警察(サツ)の動きについて報告を受けるはずだった。 莎草が先にトイレに行くと言うから居間で待っていたが戻らず、嫌な予感がして確認しに行くと、最悪の形で予感が的中した。 「やくざ・・・?」 美月の口から、美月には聞かれたくない単語が発せられる。 ホテルのラウンジで(あや)に言われた言葉が頭を(よぎ)った。 いつか必ず隠し通せなくなる。 わかってた。 でも、そのいつかが、今日だとは思っていなかったんだ。 覚悟してたつもりなのに、いざその時が来たとなると狼狽(うろた)えるなんて情けない。 俺はあの時、綾に何て言い返したんだったか・・・。 「麗彪さん」 自室に入り、自分の胡座の上に美月を向かい合わせで座らせ、細い腰に腕をまわす。 無意識に、逃さない様にしているのか。 本当に(あさ)ましいな、俺は。 「・・・あのな、美月・・・今まで黙っててごめん。()()の事・・・」 ヤクザって言葉は、多分知ってるんだろう。 悪い事をしてる組織だってくらいの知識も。 いつも、俺たちに「悪くない」って言ってくれてた美月が、本当は俺たちが悪いやつらだって知ったら・・・。 「大丈夫だよ。恐くないよ。麗彪さんも、ぱぱも、駿河(するが)さんも時任(ときとう)さんも片桐(かたぎり)さんも新名(にいな)さんもカンナさんも・・・麗彪さんのお家の人たちはみんな優しくて、みんな悪くない」 「美月・・・」 「ぼくが知ってる悪い人は、ひとりだけ。もおいない人。ここに悪い人なんていないよ」 ・・・そうだ、あの時俺は迷わず言い返せた。 美月は赦してくれる。 極道(やくざ)だろうが魔王だろうが(けだもの)だろうが、美月は赦してくれると。 「美月はやっぱり、榊家(うち)の神様だな」 「あっ!」 ほっとして、美月に抱き付こうとしたら、何か思い出したような声にびくっとなった。 なんだ、なにを思い出したんだ? 「ささめさん!警察の人って言ってた!なんで来たの?だめじゃないの?」 おう、極道(やくざ)警察(サツ)が一緒にいちゃいけないよな。 でも、あいつは・・・。 「莎草は警察に入り込んでるうちのスパイだ」 「スパイ?」 「本物の警察だが、中身は親父の手下って事」 「そっか・・・んー、でも・・・」 なんだ、何か引っかかるのか? 美月は妙に勘がいい所があるし、まさか・・・。 「ささめさん、ぼくの事小学生って言うの。18歳になったら大人なのにっ。失礼な人!ちょっとやな人!」 「・・・ふっ、んん"、そっか、それは・・・くっ・・・失礼な人だな・・・っ、後でパパに叱ってもらおうな・・・くく・・・っ」 莎草二重スパイ疑惑が持ち上がりかけたが、大丈夫そうだな。 俺は美月を抱いたまま立ち上がり、俺と同じ様に狼狽えているであろう親父の元へと向かった。

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