264 / 300

美月飲酒事案

麗彪(よしとら)side】 20歳(はたち)になる前に酒を飲んだ事を懺悔して、赦してもらった後。 何故かやたら酒を飲みたがる美月(みつき)を腕の中に閉じ込めて、なんならこのまま寝かせちまおうと思っていたんだが。 「んんん"ー・・・ぅゔ・・・っ」 ・・・おい、ぐずり出したぞ。 せっかくの誕生日なのに、これはまずいだろ。 「どした?眠い?ベッドで寝るか?」 「ゔぅ・・・」 これは・・・来るか、ギャン泣き。 ちょっと嬉しい・・・いや、だめだろ、誕生日なのにギャン泣きさせるのは。 「美月、そんなに酒飲みたいのか?」 「そんなに美味しくないですよ〜」 「具合が悪くなってしまいますよ」 「お嬢の好きなリンゴジュースにしましょ?ね?」 時任(ときとう)たちが何とか(なだ)めようとしている。 が、俺の胸に顔を埋めたまま唸り続ける美月。 「美月ちゃん、じゃあちょっとだけ飲んでみる?リンゴ味のやつ」 まさかの環流(医師)の許可が下りた。 ・・・リンゴ味の酒なんてあったか? 「念のため用意しといて正解だったよ。度数が低いカクテル」 そう言って、キッチンで缶からグラスに注いだ炭酸飲料を持ってきた。 確かにリンゴの匂いだ。 「飲むぅっ!」 ぱっと顔を上げ、嬉しそうに受け取る美月。 ああ、まじか、俺の美月が不良に・・・。 「・・・んっ」 「美味しい?」 「・・・んー、おいしい?」 疑問系だな。 ほら、別に美味(うま)くないだろ、酒なんて。 「みんな、なんでお酒飲むの?」 「えっ!?・・・えっとぉ・・・なんでかなぁ、片桐(かたぎり)さん?」 美月の質問に焦った環流(めぐる)が、片桐に振る。 年長者はなんと答えるか・・・。 「な、なんで、でしょう・・・新名(にいな)さん?」 お前も答えられねぇのかよ。 振られた新名は・・・。 「わかりません!駿河(するが)さんはなぜ飲むんですか?」 狐め、潔く駿河に振ったな。 駿河は・・・。 「俺もわかりませんね〜。いかがですか、時任さん?」 何だその実況解説みたいな話の振り方は。 だがこの流れはまずいな。 ここで時任(おかん)が答えてくれねぇと、俺に振られるんじゃ・・・。 「知らん。美味(うま)いと思うから飲む。美味(うま)くないなら飲まない。美月はこれ美味くないんだろ?なら飲むな」 美月の手からグラスを受け取り、残りをぐっと一気飲みしやがった。 おい、なに美月の飲み残し飲んでんだよ! それは俺の特権だろうが! 「みんな、わかんないけど、お酒美味しくて飲んでるの?麗彪さんも?」 「え・・・っと、はい、そうみたいです」 まあ、既に習慣みたいなとこもあるけどな。 仕事柄、飲めるに越した事はないし。 「そっか・・・20歳になったら、お酒美味しいって、思うよおになるかなぁ・・・」 「そ、そうかもな。まだちょっと早かったんだろ。2年後にまた確かめよう?」 「うんっ」 納得した美月は俺の腕の中でうとうとし始めて、そのまま眠ってしまった。 昼間はプールではしゃぎまくってたしな。 可愛い・・・と眺めていたら、環流がさっきキッチンでグラスに注いだ缶を持ってきた。 「おい、それ・・・」 「ノンアルカクテルでしたぁ」 その手があったか。 「これこそ、何のために飲むんだろうな」 「気分じゃないですか〜?」 「缶、潰しておきます。美月くんが見たら本物が飲みたいと言い出すかもしれないですし」 片桐が缶の残りを飲み干してから、両手でぐしゃっと潰した。 これであと2年は、美月飲酒事案は避けられそうだ。

ともだちにシェアしよう!