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障害物競走

新名(にいな)side】 昼食後、少しゆっくりしてから午後の競技が始まった。 午後イチは障害物競走だ。 白組(うち)からは俺が、紅組(あっち)からは(こう)が出る事になっている。 俺たちが食後にゆっくりしている間、藤堂(とうどう)(やなぎ)浩太(こうた)が準備していたが・・・。 「最後が跳び箱・・・10段?」 「特注で170cmくらいある。最後は跳び箱の後のバナナ早食いだ」 「さっきお弁当食べたんやけどぉ」 「お弁当、美味しかったね!」 お嬢の好きな厚焼き卵、たくさん食べてくれましたね。 いっぱい作っておいて良かった。 障害物競走は、平均台、網潜り、3連ハードル、フラッシュ暗算、10段跳び箱・・・そしてバナナの早食いでゴールか。 時任(ときとう)が選抜されなかった理由がわかった。 「新名、行けるか?」 「問題ありません」 「あ、バナナはちゃんと飲み込んでから走るんだぞ」 「・・・わかりました」 雅彪(まさとら)さんが、バナナ早食いポイントに藤堂を待機させた。 飲み込んだかどうか確認させるらしい。 「ハードルは跳び越えなあかんのぉ?」 「(くぐ)っても構わない」 「ならあたしは潜るかぁ」 俺は跳んだ方が早いはず。 お嬢も見てるし、格好悪い所は見せられない。 必ず勝つ・・・!! 「美月(みつき)、耳塞いでやる」 「ぼく、もおぱぁん恐くないよ?」 「耳痛くなったら大変だろ。耳のついでに口も塞ぐぞ」 「んふふっ」 そこ、イチャイチャしない! お嬢、ちゃんと見ててくれますよね? 浩太の撃った空砲でスタートし、全力ダッシュで平均台に上がってそのまま駆け抜ける。 紅も同じスピードで平均台を走って、同時に網潜りへ。 これは身体の小さい紅の方が有利か・・・ほんの少し先に網を抜けられ後を追う。 3連ハードルを連続で跳び越えると、潜り抜けて進む紅を追い越した。 「新名さんすごいっ!かっこいーっ!」 お嬢の応援に頬が緩みながら、次のフラッシュ暗算へ。 用意されたモニターには829、142、35、107、3232が連続で表示される。 お嬢の誕生日、現在の身長、体重、麗彪さんとの記念日、みつみつ・・・問題作成者は雅彪さんか。 「4345」 「正解」 (やなぎ)に解答を確認され次へ。 紅は勉強はさほど、と聞いていたので、たぶん苦戦するはず・・・。 「15!」 「正解」 「は?」 おい、問題にハンデでもあるのか? 随分簡単な問題だったみたいだけど? とにかく、残りの跳び箱とバナナで差をつけて勝たないと・・・! スピードを上げ、10段の特注跳び箱を一気に跳び越える。 これ、さすがに紅は跳べないだろと思ったけど「おりゃあ!」とか叫びながら跳び越えてきた。 あとはバナナを噛まずに飲み込むしかない・・・! 「で・・・っか」 「ガチのバナナやん!」 ガチのバナナとは? いや、考えるな、食べろ俺。 口に押し込み、その勢いのまま殆ど噛まずに飲み込んだ。 藤堂の前で口を開け、残っていない事を確認されてから再びダッシュ。 「んぐ・・・っ!?」 目を見開いて驚く紅を置き去りに、ゴールで待つお嬢の元へ。 麗彪(よしとら)さん、勝ったんだからいいですよね! 「新名さんすごいっ!かっこよかったぁ!」 「ありがとうございますお嬢!」 キラキラの笑顔で迎えてくれた勝利の女神を抱き上げ、俺はそのまま体育館内でウイニングランを決めた。

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