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打ち上げ

麗彪(よしとら)side】 運動会で無事勝利し、トロフィーよろしく美月(みつき)を抱いて榊家(実家)に帰ってきた。 明日大阪に帰るという九十九家(負け組)も一緒に。 「美月ちゃぁん、今夜は一緒に寝よなぁ」 「ふふっ、合宿ごっこの続きしよおね」 「おいてめぇ、負けたら(いさぎよ)く諦めるっつったろ!」 (あや)のやつ、堂々と美月の隣を陣取りやがって。 ・・・まあ、明日大阪(あっち)に帰るし、少しくらいいいか。 と、思いつつも美月を膝上に座らせ牽制する。 「なぁよっちゃん、俺にも美月ちゃんお膝抱っこさせてぇな」 「許さん」 「ほんま狭量やな」 言い合いながら寿司を口に運ぶ。 食卓に並ぶ寿司は全てサビ抜きだ。 美月がどれを食べても大丈夫な様に、親父が指示した。 美月は主にサーモン、ネギトロ軍艦、たまご、エビあたりを食うが、たまに他の奴が食ってるのを見て真似して口にする事があるからだ。 今は茶碗蒸しを食ってる。 自分のは食べ終えたから、親父のを。 俺のを食ってもいいのに「美味しいから麗彪さんも食べて」と言って、手ずから食べさせてくれた。 美月に食わせて貰うと、より一層美味(うま)い。 「なぁ、美月ちゃぁん、今はよっちゃんが1番好きで、よっちゃんの嫁さんでええねん。でもぉ、もし美月ちゃんが幸せやなくなったら、そん時は真っ先に俺んとこ来てぇ?俺が必ず幸せにするぅ!美月ちゃんの事、幸せに出来んのぉ、よっちゃんだけやないって知っておいてぇ」 (こいつ)、酔ってんな。 諦めの悪いやつめ。 「ありがと、(あや)ちゃん。綾ちゃんが心配しなくていいよおに、麗彪さんといっぱい幸せになるね」 「・・・うぅ・・・せやなぁ、美月ちゃんが幸せならそれがいっちゃんええ事やぁ」 ・・・おい、泣くなよ? 美月が困るだろが。 「綾ちゃん、ほんま本気やったんやなぁ・・・美月ちゃん、こんなんやけど、綾ちゃんもええヤツやねん。覚えとってなぁ?」 「ふふっ、はい」 なぜか五十嵐(いがらし)が泣きながら美月に訴えた。 俺の美月に綾を推すのはやめろ。 「可愛い妹、欲しかってんけどなぁ」 「(こう)河豚(ふぐ)でも食べてみますか?俺が(さば)きますよ」 新名(にいな)がぶちギレそうだ。 落ち着け、美月の兄(仮)はお前だから。 「ふぐ?膨らむお魚だよね?美味しい?」 「資格を持ったプロが捌いた物は美味しいですよ。今度一緒に食べに行きましょう」 新名(お前)は資格を持たない素人だもんな。 「このケーキめっちゃ旨い!」 「榊家(うち)が贔屓にしてる雪乃兎(ゆのと)屋さんに作らせたのよ。美月ちゃんスペシャル」 苺をふんだんに使ったケーキを頬張る(そう)に、カンナが説明してやってる。 雪乃兎屋(あそこ)、和菓子屋なのにな。 美月が苺好きだからって苺系の洋菓子を増やし、『美月』って名前の錦玉羹(きんぎょくかん)も売り出した。 勿論、発売前に榊家(うち)に持って来て、美月本人に試食と命名の許可を取っている。 「(すめらぎ)さん?・・・『茶碗蒸しに入ってる銀杏おいしくて好き』・・・ぼくもっ!」 (こいつ)も警戒対象だな。 そのメモ帳、燃やしてやろうか・・・いや、そんな事したら美月に叱られるな・・・。 「みんなで打ち上げ、楽しいねっ」 「そうだな。美月が楽しそうで、俺は嬉しいよ」 結局、この打ち上げは朝まで続く事となる。 勿論、美月は俺の腕の中で眠らせた。 翌朝になって、酩酊状態の俺たちを元気な美月が起こして回るという、雑然たる合宿ごっこになってしまったのは、言うまでも無い。

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