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おやつを知らなかった子ども
【麗彪 side】
今日は10月7日。
美月 と出逢って3度目の記念日だ。
だから、2人きりで過ごしたかったのに・・・。
「なんで全員家 に居るんだ・・・」
「俺たちにとっても記念日ですから〜」
「美月、それだと入れ過ぎだ。閉じないぞ」
「んぅ・・・ちょっと減らすぅ・・・」
「私と美月くんの記念日は11月3日なので、もう少し先ですね。113 つきくんの日で覚えています」
「なによそれぇ。あたしと美月ちゃんの記念日は11月23日・・・1123 の日ね!」
「俺とみっちゃんの記念日は1月1日だな。最高の年明けだ」
「俺とお嬢も1月1日です。人生で最もめでたい日です!」
そうだった、駿河 と時任 は俺と一緒に、片桐 は俺が盗んだラジコンを探しに来た時に、カンナは体重計を持って来させた時に、親父と新名 は正月の挨拶の時に、美月と出逢った。
それぞれに、美月との記念日があるのか・・・ムカつくな。
「今日は俺と美月の記念日なんだぞ」
「俺たちと、美月くんの記念日ですってば〜。それに・・・」
「他にも記念日あるじゃないですか。・・・美月、それ何入れたんだ?」
「マシュマロとチョコ」
「おやつ系は別のホットプレートで焼くので、こちらのお皿に並べてください。そうですよ、大事な記念日が増えたでしょう?」
「あたしたちには無い特別な記念日じゃないのぉ。あ、美月ちゃん、リンゴとバターのも作りましょ!」
「結婚記念日は麗彪 の誕生日より大事にしろよ。お、こっちはチーズか?」
「お嬢との結婚記念日・・・忘れたりしたら何をするかわかりませんよ、俺が。雅彪 さん、枝豆も一緒に入れてください」
そうだな、俺と美月の記念日は10月7日 と3月1日 の2つある。
今日 くらい、一緒に祝わせてやってもいいか。
大切な記念日に、ダイニングテーブルで美月と大の大人たちが集まって、餃子を作っている。
しかも大量に。
皮の数に対して餡が少ないと思ったら、普通の餡以外も入れるつもりだったらしい。
美月は主におやつ系を包んでいる。
マンショ ンにはデカいホットプレートがある。
美月が来てから買った物だ。
それなのに親父がもう1つ買って来たのは、おかず系とおやつ系を分けて焼くためだったのか。
「なあ、何個作るんだ?」
「美月くんと時任と片桐で皮作ってましたけど・・・」
「数えてない」
「ぼく数えてた!300枚だよ!」
「はい、頑張りましたね」
「美月くん以外、ひとり40個食べる計算ねぇ・・・」
「みっちゃん20個も食えるのかい?」
「お嬢が食べきれなかった分は俺が食べます!」
前に餃子パーティーした時は4人で100個食った。
美月は確か14個くらい食ってたかな。
まあ、今回のは皮が小さめなのが救いか・・・。
普通の餡、枝豆チーズ、明太子チーズ、豚キムチ、マシュマロチョコ、リンゴバター、いちごジャムとクリームチーズ。
おかず系とおやつ系は別にして、リビングに移りホットプレートで時任と片桐が焼き、焼けたのから各々 摘んでいく。
「うまっ」
「麗彪さん、的確に美月くんが包んだの選んで食べるのやめてくださ〜い」
「熱いから気を付けろよ」
「はぁい!」
「美月くんは酢醤油、お酢多めが好きですよね」
「んーっまい!」
「酒 が進むなあ」
「あっ、お嬢は俺と一緒に烏龍茶にしましょうねっ」
・・・ったく、どいつもこいつも俺の美月に構いやがって。
まあ、美月 が楽しそうだから文句言えねぇが。
「麗彪さん、美味しいねっ」
「ああ。美月が作った餃子最高」
マシュマロチョコ、意外とイケる。
美月みたいに甘い・・・が、美月の方が美味 いのは言うまでもない。
食べて飲んで、美月がこっそり仕込んでたハバネロ入り餃子も運良く俺が食って・・・。
美月はノルマの20個を完食。
半分以上甘いの食ってたけど、たくさん食べられる様になって本当に良かった。
腹ごなしにゲームしてから、親父は迎えが来たので帰り、他の奴らが後片付けをしている隙に、俺は美月を連れて屋上へ上がった。
「この1年も色々あったな」
「うん・・・綾 ちゃんと合宿ごっこしたり、みんなでボーリングしたり、イチゴ狩り行ったり、お外で待ち合わせしてデートしたり、運動会したり・・・楽しかった!」
そうか、楽しかったか。
良かった。
悪夢に悩まされ上書きしたり、イヤイヤ期が来たりギャン泣きしたり、停電したり、家業がバレたり、綾が横恋慕してきたりと、楽しいだけじゃなかったろうに。
カップルチェアに座り、膝上に向かい合わせで座らせた美月を撫でる。
「あと・・・1番嬉しかったの・・・婚姻届書いて、麗彪さんの、ほんとのお嫁さんになれた事・・・っ」
そう言って、俺にぎゅっと抱き付く美月。
愛おし過ぎて狂いそうだ、と真剣に思う。
気付けば美月の肩口に顔を埋 め、噛み付いていた。
この癖も、治 るどころか悪化する一方だ。
何より、美月本人がそれを喜ぶのが問題・・・いや、俺に都合が良いから黙っとこう。
「愛してる、美月。お前は俺の全てだ」
「ぼくも・・・愛してる・・・っ、麗彪さんは、ぼくの世界・・・っ!」
酷く疲れていた訳でも、暗闇を歩く事にうんざりしていた訳でも、況 してや頭を打って前後不覚になった訳でもなかった。
ただ素直に、欲しいと思った。
他の誰にも渡すわけにはいかないと、ガキみたいに力尽くで奪ってきた、愛しい愛しい美月。
15歳なのにおやつを知らなかった子どもが、今はおやつ大好きでひたすら可愛い18歳の俺の嫁。
あの時の俺に言ってやりたい。
お前は人生最高の選択をして、唯一無二である伴侶の手を取ったんだ、良くやった、と。
END
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