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ぼくの神様
【美月 side】
「はあ?何でそんな事になってんだ?お前な、ちゃんと見とけよ・・・あ、おい!?」
そお言ってから、麗彪 さんはため息ついて、電話を切った。
「どおしたの?」
「いや、それが・・・なあ駿河 、今日の仕事キャンセルしてくれ。美月の傍にいたい」
「何かあったんですか?」
「綾 の飼い犬がこっちに来てるらしい」
綾ちゃんの、飼い犬?
綾ちゃん、わんちゃん飼ってたの?
「どの犬です?」
「皇 だ」
え、皇さん?
皇さんは、わんちゃんじゃないよ?
「皇さん、来るの?」
「会いたいとか言うなよ・・・」
「お迎えに行こ!迷子になっちゃってたら大変だもん」
「だから、言うなって・・・」
麗彪さんてば、皇さんの事、心配じゃないの?
皇さん、しゃべれないんだから、道がわかんなくなっちゃっても、誰かに聞けないんだよ?
運動会の後に聞いたけど、子どもの時に喉にケガして、しゃべれなくなっちゃったんだって。
風邪じゃなかったんだ。
でも、飴は好きだから、またちょうだいってメモに書いてくれてた。
「迎えにって言ったって・・・マンショ ンの場所は知らないだろうから、榊家 に行ってるかも・・・」
「行こ!」
駿河さんと時任 さんは麗彪さんの代わりにお仕事行って、ぼくと麗彪さんは片桐 さんの車でぱぱのお家に向かった。
もおすぐお家だ・・・って思ったら、歩いてる皇さんを発見。
「皇さぁん!」
窓開けて呼んだら、皇さんが振り返ってにこってした。
良かった、迷子になってなくて。
「乗る?」
皇さんが首を横に振る。
もお着くもんね。
ぼくも麗彪さんと車から降りて、皇さんとぱぱのお家まで歩こうとしたけど、皇さんはぼくに紙袋を渡してきた。
・・・あ、これって。
「こし餡のお菓子?持って来てくれたの?ありがと!」
あれ、紙袋の中、お菓子の箱だけじゃなくて、お手紙も入ってる。
「これ、皇さんが書いてくれたの?」
皇さんが、こくんと頷いた。
開けて読もおとしたら、メモ帳を見せてくれる。
『家に帰ってから読んで』って書いてあった。
「わかった。ありがと」
「皇、綾が心配してたぞ。どうすんだ?」
皇さんがメモ帳をめくると『帰ります』だって。
「え?もお帰っちゃうの?」
めくったメモ帳には『綾ちゃんの面倒見ないといけないから。また来るね』って。
「そっか・・・今度来てくれる時は、こし餡でいちご大福作るねっ。いっしょに食べよ!」
皇さんは、またにこって笑って、片桐さんの車に乗って行っちゃった。
新幹線で帰るから駅まで送るって。
お見送りしたかったけど・・・ぼく、電車がちょっと恐いから・・・。
車の前でばいばいして、ぼくと麗彪さんは歩いてぱぱのお家へ。
「みっちゃん、お帰り。大丈夫だったか?」
「そこでね、皇さんに会ったよ。こし餡のお菓子持って来てくれたの」
「そうか」
それから、片桐さんが戻って来るまで麗彪さんとぱぱとこし餡のお菓子食べて、2人がお仕事のお話ししてる間に皇さんからのお手紙を読む事にした。
お手紙には、ぼくが麗彪さんのとこで幸せになって嬉しいって事、ぼくについて勝手に調べてごめんなさいって事、皇さんもぼくと同じよおに綾ちゃんに助けてもらった事が書いてあった。
じゃあ、皇さんがしゃべれなくなったのって・・・。
「美月?どうした?」
「ううん、なんでもない。大丈夫だよ」
あと、『麗彪さんも綾ちゃんも、パンダリオンみたいだね』って書いてある。
・・・うん、そおだね。
ぼくはたぶん、麗彪さんみたいって思ったから、パンダリオンが大好きなんだと思う。
パンダリオンはゼノスだけど悪いヒトじゃないのと同じで、麗彪さんもみんなも、やくざさんだけど、悪い人たちじゃない。
ぼくや、皇さんを助けてくれた人たち。
みんな、ぼくの事を神様って言うけど、ぼくにとっては麗彪さんが神様なんだよ。
あの頃は、神様なんて言葉、知りもしなかった。
オークションで、真っ白なライトを当てられて何も見えなかったぼくに、おいでって優しい声で言って、手を引いてくれた麗彪さん。
その時、神様って言葉を知ってたら、麗彪さんの事を神様って呼んじゃってたかも。
「んふふ」
「なに笑ってんだ?そんなに面白い事書いてあった?」
ぱぱとのお話が終わった麗彪さんが、ぼくの隣に座ってから、ぼくをひょいって持ち上げて、膝の上に座らせてくれる。
・・・それ、ぼくが100kgになっても、してくれるんだよね?
ぼくが100kgになっても、抱っこしてくれるって言ったもんね?
「ぼくが神様に会った時の事、思い出しちゃって」
「は?神様は美月だろ」
「ぼくの神様は麗彪さんだよ」
「・・・え?」
麗彪さん は、きょとんとして、少し考えてから、まあいっかって言って、ぼくを抱きしめてキスしてくれた。
「あとね『文通友達になりましょう』って書いてあったの。ぼく、文通友達出来た!」
「文通!?・・・く・・・美月が、したいなら・・・でも、見せろとまでは言わないから、手紙の内容は毎回教えてくれ!言える範囲でいいから!」
「ふふっ、いいよ」
皇さんが書いてくれたお手紙は皇さんに聞いてからじゃないとだめだけど、ぼくが書いたお手紙の方なら、麗彪さんはいつでも見て大丈夫だよ。
ぼくは全部、麗彪さん のものだから!
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