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Endless Night【3】

充彦の少々熱のこもりすぎた、けれど思いのすべてを詰め込んだ挨拶が終わり、そこからは穏やかにスムーズに授賞式は進行していった。 新人賞には航生と、去年トップグラビアアイドルから突然AV転向を宣言し、あっという間にハードコア作品も含め10本以上に出演してすべてをスマッシュヒットさせた瀬名ちゃんという女の子が選ばれた。 航生と彼女は絡みの経験は無いものの、雑誌のグラビア企画での共演経験がある。 登壇し並んで笑い合う姿を見る限り、グラビア出身とはいえ傲った所の無い性格の良い女の子らしい。 ソフトコアから乱交物までこなすその度胸も、明るく楽しそうに仕事を語る姿もなかなか好感が持てる。 一部では『第2のアリちゃん』と呼ばれているらしいが…なるほど、そんな呼び名も納得できる雰囲気だった。 おそらくは良い事務所で大切にされ、良い現場で仕事を教わり、上手に育てられているんだろう。 仕事の内容に見合うだけのギャラをちゃんと受け取る事で、これからますますプロとしての自信も実力も付いてくるはずだ。 最優秀女優賞には、以前俺だけでなく充彦も共演した事のあるベテランの清香さんが選ばれた。 30代ながら企画物では今でもセーラー服を着るし、今年からは熟女物にも出演してみせるという、見た目だけだと年齢不詳の、ある意味モンスター女優だ。 この彼女にとって初めての熟女物が異例の大ヒットになった事で各社大慌てでそれに倣い、今年のビデオの売上の上位を熟女物が独占するという、近年の着エロ・合法ロリブームを完全に覆す事になった。 その経歴も内容も貫禄も、最優秀賞を獲るのに相応しいと言えるだろう。 ………酒を飲み過ぎると完全にエロ親父になり、泥酔した彼女に居酒屋で跨がられかけたというのは、充彦には内緒だ。 そして最優秀男優賞、話題賞、特別賞は一度にまとめての発表になった。 男優賞と話題賞は俺と充彦、同じく話題賞と特別賞を航生と慎吾が授賞したからだ。 年齢制限の無い作品を極限までエロティックに表現した事を評価された俺達。 年齢制限があるポルノ作品でありながら、その映像美と初々しさで芸術的だと評価された航生と慎吾。 そして、AV男優とゲイビデオモデルが堂々とファンイベントを行い、そのイベントを有料でストリーム配信を行うという画期的な企画。 去年1年間の俺達4人の活動のすべてが、これからのアダルトコンテンツの可能性を広げたと絶賛された。 横一列に並べば、一気にフラッシュの洪水に飲み込まれる。 「いやぁ、確かに去年1年間のみんなの活動は、イヤらしい・イヤらしないっていうのを抜きにして、ほんまに面白かったもんね」 正装の芸人さんにマイクを突き出される。 喋るのはちょっと苦手だと充彦をチラリと上目で見るものの、充彦は知らぬ顔でそっぽを向いた。 「あー、そうですね…はい。去年は裸より、服を着たままでカメラの前に立つ事の方が多かったかも…しれないです」 「本番せえへんみっちゃんはともかく、現役バリバリでハードコアOKの勇輝くんまでビー・ハイヴの専属になってしもうたんは、純粋にAVファンの一人としては寂しかってんけどね」 「あ、はい…すいません。でもですね、大丈夫ですよ。今年ビー・ハイヴの中にストーリー性の高いハードコアレーベルを作るという事になってまして、僕はそちらの作品にも出る事になってるので……」 ザワッと会場がどよめき、充彦が慌てて俺の口を塞ぐ。 選考委員席では、ビー・ハイヴの社長が何やら周囲に汗を拭きながら説明をしていた。 「あ、あれ? もしかして…まだこれって……」 「見事に情報解禁前ですな」 充彦が呆れた顔で苦笑いを浮かべる。 「ヤバいねぇ…撤回なんてのは……」 「ま、生放送で流れてるし、無理ですな。しゃあないか…元々緊張したりテンション上がったりしたら何言い出すかわかったもんじゃないって誰よりも知ってた俺が無理矢理喋らせたって事で同罪だわ。社長、すいませんでした~」 そこはそれ。 こんな場所での仕切りを任されるだけあって、芸人さんもよく心得ている。 チラッと目線を送った充彦に気付いたのかニッと笑って小さく頷くと、マイクの先を航生へと向けた。 「さて、そしたら次は航生くんに…去年は、環境も仕事も一気に変わって大変やったんちゃう?」 「そうですね…本当に何もかもが変わった1年でした。もういっそ死んだら楽になれるんじゃないかとまで考える事があったくらい苦しい毎日からみっちゃんと勇輝さんに助け出されて、こうして慎吾さんという存在に出会えて、お仕事もたくさんさせていただいて…俺に関わってくださった皆さんには感謝しかないです。これしか言えなくてすいません…でも、本当にありがとうございました」 「航生くんこそ、『正式な契約』と『法律』に守られた人やもんね。色んな人に助けてもうたんや?」 「助けられましたね…俺が無知だったのが勿論悪かったんですけど、それでもそういう事に強いみっちゃんが話を真っ先に聞いて動いてくれたからこその今だと思います。なので、経験者である俺からの言葉として、今仕事で悩んでいる女優さん聞いてください。あ、これはちゃんと色んな大人の人に許可をいただいてますので、誰かさんのフライング発表とは違いますんで…」 「誰かさんは余計!」 「ハイハイ、すいません。俺のような人間がやはりこの業界は少なくはないという事、最近の強制出演についての告訴問題を受けまして、うちの事務所とビー・ハイヴ本社を窓口にして、救済ホットラインを作る事になりました。俺がイメージキャラクターとして、今後はSNSも駆使して望まない仕事や契約内容と違う仕事を押し付けられているような女優さん、男優さん、ゲイビのモデルさんの相談に乗っていきたいと思います。必要性があるようなら弁護士さんを立てて交渉していくようにしますので、悩んでる皆さん、もう一人で抱え込まないでくださいね」 「あ、ゲイビ側の窓口はアムールも受け付けますし、そっちは俺が相談聞く事もできるんで、身バレの心配とか嗜好に対しての不安もなんもいらんからね」 そうなのだ。 俺達が知らないうちに航生と慎吾が直接掛け合い、いつの間にやらこんな話が決定していた。 充彦イズムの恐ろしさだ…何も知らず何もできなかった航生が、こんな正義感と行動力を見せるんだから。 「いつまでも無法、脱法を許してる業界だと思われるわけにいかないですから。これからは、リアリティーよりもテクニックと演技力、そして企画力を駆使して、よりアダルト業界やアダルトコンテンツが盛り上がっていってもらえるといいなぁと思ってます」 充彦の締めの挨拶を受け、そのまま壇上でフォトセッションが始まった。 この後は一般観覧の招待客も入り交じり、軽く飲んだり食べたりをしながらのファンサービスタイムが用意されている。 前後のテーブルを区切っていたロープが外される頃を見計らって俺達は自分のテーブルへと戻り、先に4人だけでシャンパンのグラスを合わせた。

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