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Endless Night【4】
フロアのテーブルの一部が移動させられ、授賞式の後はそのままこの会場がファンとの交流会兼祝勝パーティー会場に変わる。
授賞式はテレビ中継の関係もあるからこういうホールで良いのだけれど、本当なら祝勝パーティーはどこかのホテルの宴会場にでも移動すべきなんだろう。
しかし、関係者だけでなく一般のファンまで入場させる上AV関係者ばかりの集まるパーティーというのはあまり予約の段階で良い顔をされないんだそうだ。
数年前には別の授賞式会場で突然乱交パーティーを始め(当然企画物DVDとして発売予定だった)、事前に服を脱ぐことすら禁止の旨を約束していたホテル側が激怒し、業界団体名で正式に抗議文が送られてくる…なんて事態が起きた事もあって、前払いで全額入金を約束しても利用を断られる事が続いてるらしい。
という事でこのアダルトコンテンツアワードについてはセッティングから給仕まですべて混みになっていよ高級ケータリング会社と契約し、ファンへの感謝イベントを兼ねるという今のスタイルで開催される事になったんだそうだ。
引退した事で、もうこんなイベントへの出席は無いと思われていた充彦の来場が早々に発表されていた事もあり、今回は入場希望の申し込みの半分は女性だったらしい。
今もそんな興奮気味の女性達に囲まれながら、充彦はにこやかに写真の撮影に応じている。
「充彦、俺ちょっと便所行ってくるわ」
背伸びをして、耳の中に直接そっと吹き込む。
そんななんてことはない仕草にも『キャーッ』なんて悲鳴じみた声が上がり、つくづく俺も充彦も二人一つで愛されてるんだなぁと実感した。
設営スタッフの一人に声をかけトイレの場所を尋ねると、思いの外細くて長い通路へと誘導された。
一般客と出演者のトイレは分けてあり、一般用は近いのだが出演者用の物は普段ライブなどの時には控え室として使われている部屋のすぐそばまで行かなければいけないんだそうだ。
わざわざ分かりにくい暗い通路を抜けた所まで連れてきてくれた彼に礼を言い、ピカピカに磨かれたトイレに入った。
今日は少しアルコールのペースが早すぎたかもしれない。
久々に会う監督さんや制作スタッフさんが次々にお祝いに来てくれて、その度に注がれるシャンパンをすべて一気に空にしていた。
本格的に酔うほどの量では無かったはずだが、尿意を催すには十分過ぎたらしい。
いつもより少し時間をかけてスッキリした頃、誰かが扉を開ける音が聞こえた。
関係者用のトイレに入ってくるのだから出演者なのだろう…とぼんやり考えていたが、その人物は個室に入る気配が無い。
誰かを探しているのか?とタキシードのウエストを整えながら様子を窺っていると、その人物は俺のいる個室の前へと歩いてきた。
さすがに少しだけビビり、もう用は終わったのに出るに出られない。
扉を挟んで恐らくは睨み合いになっているであろう時間に痺れを切らしたのは、外の人物だった。
「………勇輝くん、おる?」
思ってもなかった声。
俺は急いでドアを開ける。
「慎吾…お前、なんでここにいるの?」
航生と慎吾はフォトセッション終了後、一足先に会場から出ていったはずだった。
男性ヌードモデルばかりを集めた写真集に目玉ゲストとして登場する事になり、夜出発のクアラルンプール行き飛行機でマレーシアに向かう事になっていた。
出国手続きを考えれば、もうとっくにここを離れていなければいけないはずだ。
「あれ? お前だけ? 航生は?」
「ちょっと気になるヤツ見かけてん…いや、似てるだけやったらええんやけど、もしここにおったら勇輝くん、気ぃつけた方がええかもしれんと思うて……」
「え、何? どういう事? てか、お前早く空港向かわないと。航生はどうしたんだよ?」
「航生くんには、忘れ物しただけやからってタクシーの中に残ってもうてる。あんまり航生くんには知られたない人間がおってん。いや…思い出させたない…が正しいかな……」
その言葉が嘘ではない事を表すように、慎吾の顔色は決して良くない。
俺は洗面台で手を洗いながら鏡越しに真っ直ぐその顔を見つめた。
「お前急がなきゃいけないんだから、用件だけ早く言え」
「見間違いである事を祈ってるけど…藤巻がおった」
「藤巻?」
「昔俺らの会社裏切った男で…航生くんを…瑠威を嬲り続けた男。それこそ違法、無法、脱法の塊で、今年のこの賞の趣旨からは一番遠いはずの…クズや」
ドクン…と胸が嫌な音を立てる。
ゆっくりと振り返った俺を見る慎吾の唇は、微かに震えていた。
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