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季節外れの雪【充彦×勇輝】

「ちょっと付き合ってよ」 夕方になってからどこかにフラリと出掛けた充彦が、1時間ほどして帰ってくるなり言った。 充彦がいないのなら今日は...と夕飯を作っていた俺の腕を掴み、抵抗の余地など無いままにズルズルと引きずり出される。 そのままエレベーターで一階へと下りると、エントランス前にはどこから調達してきたのか3ナンバーのRV車が停まっていた。 助手席のドアを開け俺の体を中に押し込むと、充彦はしれっとした顔で運転席に座る。 「何? 急ぎなの?」 「まあ...急ぎっちゃあ急ぎかな」 目で合図されシートベルトを着けると、待ってましたと言わんばかりに車は動き出した。 そのまましばらくは下道を走り、じきに車は高速へと上がる。 車中に続く沈黙。 常に喋っていなければ気が済まないような関係でもないが、目的が知らされないままのドライブはなんだか少し居心地が悪い。 「どこ行くの?」 「うーん...内緒」 「この車どうしたの?」 「事務所が移動用に新しく買ったやつ。ちょっと借りてきた」 ......ああ、終わってしまった...会話。 まあ、充彦が今はあまり詳しく話したくないみたいだから、当たり前と言えば当たり前か。 こうして車で出掛ける機会は決して多くはなく、今はこの珍しい空間でのお互いの息遣いだけを楽しむしか無いらしい。 疑問が無いわけではないけれど、少なくとも充彦が俺に嫌な思いをさせるわけはないはずだ。 ならば俺は充彦にすべてを預けるしかない。 「そんな遠いとこ行くわけじゃないし、すぐ着くから。とりあえず、まあちょっとだけ楽しみにしといて」 俺が怒ってるか拗ねているとでも思ったんだろうか? 真っ直ぐに前を向いたままシフトレバーに置いていたはずの左手を伸ばしてきてギュッと俺の手を握る。  別に怒ってなどいないと伝えようと、俺は改めてその手にしっかりと指を絡めるとギュッと握り返した。 ********** それからどれくらい走っただろうか。 時計も携帯も持ってないままで正確な時間はわからないけれど、おそらく1時間は経っていないだろう。 とあるICを下り、充彦はそのまま山の方に向かって車を走らせる。 言葉は無いけれど、なんとなくチラリと窺い見る横顔が目的地が近い事を教えてくれた。 街灯もほとんど無い暗く細い山道を、迷う事もなく進んでいく姿に久々にキュンと胸が締め付けられる。 車内のメーターの頼りないライトに浮かび上がるだけのシルエットでも、その姿は妙に自信に溢れて見えた。 はぁ...やっぱり充彦って...最高にかっこいい...... 「は~い、お待たせ。着くよ」 その声と同時に、車は何やら空き地のような場所に入っていく。 そして車のヘッドライトに照らされ、その空き地の真ん中に浮かび上がるのは...... 桜の樹。 それも恐ろしく見事な枝振りで、その枝は満開の花弁の重みでしなってみえるほどだ。 ヘッドライト以外の明かりが無い中で、その樹だけがぽっかりと闇に浮かんで見える。 やけに白い花弁は、背中がゾッとするほど厳かで美しかった。 「す...ごいね......」 「どうよ、悪くないだろ? 今まで勇輝と花見なんてした事無かったからさ、一回くらい夜桜見物してみたくて。まあ、近所だと変にライトアップされてるせいで、みんな宴会とかしてんじゃん? できればさ、ほんとに二人きりで静かに見たかったんだよね......」 思わずドアを開け、その立派な樹に近づいた。 真っ直ぐヘッドライトが桜を照らす中、その幹にそっと触れながらゆっくりと上を向く。 いつも見慣れた物よりも花弁が白く儚く感じるのは、こんなヘッドライトの頼りない光のせいだろうか? もう盛りを過ぎつつあるらしいその桜は、チラチラと雪のように花弁を散らしていた。 あまりにそれが美しく、ただぼんやりとその淡雪を目で追っているだけの俺に焦れたのだろうか。 背後でドアの開く音と、砂利を踏みしめるような気配を感じた。 その気配はゆっくりとこちらへと近づいてくる。 「よくこんな場所知ってたね......」 「ああ、もう今は辞めちゃったんだけど、結構仲良かったスタッフさんにこの辺の出身の人がいて、時々ドライブがてら実家まで送ってあげてたんだよね。んで、一回だけ春にここ連れてきてもらってさ...この桜が怖いくらい綺麗で感動したんだ」 「ほんと、綺麗だね...怖いくらい真っ白で...吸い込まれそうだ」 「これ、ソメイヨシノじゃなくてその原種の一つらしいよ。山桜なんだってさ。桜っていうとピンクだと思ってたけど、こんな純白の花もあるんだなって、その時もずーっと見てた」 充彦の穏やかな声を聞きながら、ボコボコとした幹の皮をそっと指で触れる。 突然、渦巻く程に強い風が吹いた。 そう、まさにそれは花散らし。 それまではチラチラと淡雪のように舞っていた花弁は、吹雪となって体を包む。 目ではそれを追いきれなくなると同時に、背後から伸びてきた腕に強く抱き締められた。 温かい...... その腕の温かさと力強さにそっと目を閉じる。 「充彦、急にどうしたの?」 「お前がなんかさ...どっか行っちゃいそうに思えた。桜に連れて行かれそうっていうか......」 「俺が? 桜が俺をどこに連れていくんだよ」 「どことか関係無いよ。あんまり真っ白で儚くて綺麗で、勇輝があのまま花弁に包まれて消えちゃいそうに思ったんだよ...このまま離れたら二度と会えないような気がして......」 「じゃあ...離さないでよ。ずっと抱き締めて、ずっとそばにいてよ...俺がどこにも行けないように」 風が止み、ヒラヒラと舞っていた花弁は雪が積もるように足元にうっすらと重なっていた。 ただ羽織っただけだったダンガリーシャツは肩から背中を滑り、ふわりと地面に積もった花弁を乱す。 まだ少し肌寒い夜の空気に微かに強張った体は、すぐに別の物に粟立った。 後ろから覆い被さってきた大きな体が俺を包み込み、痛いくらいの力でうなじに吸い付く。 しっかりと抱き締める形のまま、左手は少し大きめのタンクトップの胸元から乳首へ。 そして右手はいとも簡単にデニムのホックを外してその中へ。 うなじに花弁を散らした充彦の厚い唇はそのまま肩口へと移動した。 俺よりも俺の体を知る指と唇。 一気に上がっていく熱を止められなくなる。 押し潰すように強く乳首を捏ね捻り、その先を爪の先できつく摘ままれれば、意識などしないままに腰が揺れた。 体を仰け反らせてそれから逃れようとするも、俺を覆う充彦の大きな体がそれを許さない。 せめてもと、桜の幹に頼りなく縋る。 充彦の右手はすでに形を変えつつあった昂りに添わされ、それを辛うじて腰骨に引っ掛かっているだけのデニムの上へと引っ張り出した。 外だと言うのに、前を寛げ中身を擦り上げられながら胸をまさぐられている俺。 我ながらなんと淫らな姿だと、頭に浮かべただけで目眩がしそうだ。 散々に痕を付けた事で満足したのか、今度はヌメヌメと舌が耳孔へと入り込み、痛いほど耳朶に噛み付かれる。 その僅かな痛みすらも俺にとっては快感でしかなく、昂りをグニグニと弄ぶ手の中からはニチニチと粘る水音が聞こえてきた。 その手の動きに合わせて、腰はユルリと勝手に揺れる。 漏れそうになる声を、必死に唇を噛む事で堪えた。 誰もいない、誰も来ない。 そんな事はわかっているのに、それでも誰かに見られるのではないかという背徳感に震える。 崩れそうになる体が支えきれず更に桜に凭れそうになった俺を、胸を弄っていた左腕が強く支えた。 気づけばその腕は俺の体に強く押され、ボコボコとした桜の表皮の形になっている。 「んあぁっ...充彦...腕...腕どけて...はぁ...ケガしちゃうから......」 「平気、こんなんでケガするほどヤワじゃない。つかさ、こうしてないと...お前の体に擦り傷できるだろ。桜に縋るくらいなら、いっそ俺に全身凭れてろ。もっと素直に俺のする事受け止めて、もっと素直に反応して、俺に全部委ねてろよ。そしたら俺の腕に傷なんてつかない」 まったく...優しいのか意地悪なのか。 俺の体に傷を付けたくないと自らの腕を下敷きにする。 ならばこの、悪戯にしては過ぎる行為を止めるか、せめて加減してくれれば良いものを、俺を啼かせる事を止めるつもりは毛頭無いらしい。 もっとも、ここまで高められていながら中途半端に止められるなんてのはまっぴらゴメンだけど。 少なくとも『充彦の腕の傷を増やさない為』という免罪符のできた俺は、それを言い訳にして素直に甘い責め苦を受け入れる事にした。 背中を大きく反らし、意地悪くニヤニヤとしているであろう充彦の首に腕をかける。 腰だけを突き出すようなはしたない姿になり、それでもしっかりと体を充彦の胸へと預けた。 ヘッドライトのせいで逆光になりはっきりとは見えない後ろの充彦に向かって顔を捩ると、ソロソロと舌を伸ばす。 「体支えててやるから、自分で気持ちよくなれるように腰振ってみ? イキたいだろ? もうヌルヌルになってきてるよ...上手に動かせるよな?」 緩かにそこを扱いていた手止まる。 『やってごらん』ではなく、『やれ』という事らしい。 今日の充彦は、いつにも増して意地悪だ。 けれどなぜか俺の体はそれを嫌がるわけではなく、それどころか止まる所を知らないようにどんどん体温が上がっていく。 動かない俺の背中を押すように、充彦が俺の伸ばした舌に噛みついた。 ジュジュッと音がするほど吸い上げ、激しく絡みつけ、そしてゆっくりと唾液を流し込んでくる。 その口づけの激しさに、俺はいつの間にか腰を必死に振っていた。 もっともっとと舌と唾液をねだり、放出の時を探る。 充彦の指はただ俺の昂りを握っているだけでなく、時折掠めるように先端を擽り裏側をなぞった。 すっかり敏感になってしまっている乳首を捏ねる力はより強くなり、引っ張られるたびにそこから腰に向かってムズムズと刺激が走る。 「はっ...んぅん...お、お願い...イカせて...あぁっ...お願い...も...もう、イカせて......」 高みを目指して必死に腰を振るが、あと少しが足りない。 自慰とも手淫とも違い、細かな自分の快感のツボを刺激することができない。 充彦に背中を預け、その口許を子猫が母親に甘えるようにペロペロと舐めれば、その口許のシルエットがニヤリと笑ったように見えた。 おねだりは満足のいく物だったらしい。 次に来るであろう快感を期待して身体中が小さく震える。 「いいよ、イカせてあげる...いっぱい出して」 指先だけが動き、ギリギリまで焦らされた。 もうかなりいっぱいいっぱいだった。 そんな俺を面白がるように、また唇が耳朶を口に含み、左手は乳首を、右手は昂りを激しく責め始める。 荒い息を短く吐き、耐える為かさらにその刺激を強く感じる為か、俺は固く目を閉じた。 もう昂りは熱く重い。 ドクドクと脈を感じ、俺は充彦に縋る腕に力を込めた。 「ほら、イッて.....」 ゴリゴリと音が響くほど耳朶が強く噛まれる。 ゾクゾクして堪らない...イク...イッてしまう...... 「イッて...」 優しい声色が嘘のように、乳首に爪が食い込むほどの力が加わる。 「ハッ...イク...イ...ク......」 ピクピクと痙攣するように震えだす体。 グリと鈴口に爪を立てられて...俺のそこはようやくドクンと弾けた。 充彦に凭れたまま、ゆっくりと体の力が抜けていく。 なんだかひどく億劫でうっすらと瞼を開けると...そこには充彦のいつもの優しい笑顔。 そしてその後ろには...... 「桜に...見られちゃった......」 「バーカ、見せつけたんだよ。勇輝は俺のだってな」 また少しだけ風が強くなってきた。 さすがに寒くなってきた俺にシャツを掛け、乱れたズボンをきちんと直すと、充彦は俺を正面からしっかりと抱き締める。 花弁の舞い散る中、今度は熱を鎮める為の穏やかな口づけを交わした。

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