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あなたがいない 3

まずはイメージグラビアのような場面。 レースの下着でポーズを付ける彼女の体を舐めるように足元からカメラが映し出す。 そんな映像なんてのは正直どうでもよくて、さっさと俺の愛しい人を出して欲しい。 そこから短いインタビューが入り、ようやく画面が暗転した。 グレーのベストに同じ生地らしい膝丈のタイトスカート姿の彼女。 アコーディオンカーテンに仕切られた小さなシンクの前でインスタントコーヒーを入れている。 どうやら会社の給湯室という設定らしい。 そう言えば、秘密のオフィスラブみたいな話だったっけ...なんてあまり働かない頭の隅で微かに思い出す。 コーヒーを入れ、マグカップを握って出て行こうとしたタイミングでいきなりアコーディオンカーテンが開いた。 彼女の体を中に押し戻すようにしながら、大きな影がその狭い給湯室へと入ってくる。 袖丈のちょっと足りてない量販店の濃紺のスーツ姿。 ああ、もう...袖が短くたって安物のスーツだって、何を着ててもかっこいい...... そのスーツ姿の肩越しに、明らかに不機嫌になった顔の彼女がアップになる。 『そこ、どいてくれる?』 『そんなに怒るなよ...な? ほんとこないだは悪かったって。急に接待に同行するように言われて、俺も断れなかったんだよ』 『でも、ずっとほったらかしにしてたくせに...私、待ってたのに...あなたからの連絡、ずっと待ってたんだから!』 笑ってしまいそうなくらい下手くそなセリフなのに、胸がギュッと苦しくなった。 ......そう、待ってたんだ...ずっと待ってた... 『うん、ごめん...言い訳にしかならないけどさ、ほんとすごい忙しかったんだ』 『忙しいのはわかってる! あなたが仕事を一生懸命頑張ってるのも知ってるし、だからこそ成績がついてきてるのだって知ってるわ。だけど...だけどね、あなたが忙しいからこそ...あたしの事を忘れてしまうんじゃないかって怖かったの......』 こんな話だったんだな...横たわったまま画面をぼんやりと見ていると、不意に目の前の世界がグニャリと歪んだ。 おかしいと思って何度かパチパチと瞬きをすれば、まるで押し出されるように涙がゆっくりと伝っていく。 それはこめかみの方へと流れ、そのままラグに吸い込まれた。 男がね、一生懸命に仕事するのは当たり前なんだよ。 忙しくしてるなんて感謝すべき事なんだよ。 脇目も振らずに働いてクタクタで、連絡する元気も無い事だってあるんだよ。 頭ではわかってる、理解してる。 だけど今の俺には、彼氏を責める彼女の気持ちも痛いくらいよくわかった。 忙しいのがわかってるからこそ、邪魔をしないようにとこちらから連絡するのは控えているのだ。 時間さえできれば、きっと声くらい聞かせてくれると...ただひたすら待ってるんだ。 俺の気持ちは、学芸会よりもはるかに下手くそなセリフしか出てこない彼女の役柄へと次第にシンクロしていく。 『だから! だからさ、ほんと悪かったって思ってるんだよ。でね、俺すごい頑張ったんだ......』 握りしめられたままのマグカップへと思わせぶりに伸ばされる指。 その指先から、ゆっくりとカメラが上がっていく。 柔らかい笑顔、優しい瞳。 映し出されたのは今よりも少しだけ若くて、でも全身に纏うエロティックな空気は今と全然変わらない...俺が一目で恋に落ちたその相手だった。 取り上げたマグカップをシンクに置くと、充彦は目の前の体をそっと抱き寄せる。 充彦の長い腕がしっかりと彼女を包み込んだ。 その瞬間、まるで俺が抱き締められているかのように体が熱く、苦しくなる。 『埋め合わせしなくちゃって頑張ってさ...年休まとめて入れてもらったんだ。明日から5日間、ずっと一緒にいられるよ』 いやいや、いきなりそんな話をしたところで、彼女は有給休暇なんて申請してないだろうよ...そんな不粋なツッコミは、今は不要だ。 どうせご都合主義のアダルトビデオなんだから。 それよりも今は...『5日間ずっと一緒にいられるよ』という充彦のセリフに嬉しそうに微笑んでみせた彼女に、嫉妬のような感情を覚えてる自分に焦る。 俺だって言われたいんだ...『いっぱい頑張ってきたから、5日は一緒にいられる』って。 いや、3日でいい...ううん、1日でも...違う、今は一目会えればそれでいい。 腰を抱いていた充彦の手が、そっと下へと移動を始める。 きつそうなスカートを器用にたくし上げれば、すぐに露になる下着。 『ちょ、ちょっとやめてよ...こんなところ、誰かに見られたら......』 『シーッ、黙って』 背中を抱いていた手を離し、彼女に顔を寄せながらその唇を指先でなぞる。 なんだかそれにゾクゾクして、思わず俺も自分の唇にそっと触れた。 『もう今はオフィスに残ってるの、俺とお前だけだよ。だから大きな声さえ出さなけりゃ、誰にも気づかれない』 唇をなぞっていた指がそこを割り、するりと口内へと忍び込む。 スカートを捲り上げた手は、いつの間にか下着の上から敏感な場所をコリコリと擦り始めた。 『あぁっ......』 控えめに漏れたのは彼女の喘ぎか、それとも俺の吐息か。 画面の充彦の動きに合わせるように唇に触れていた指を口に含み、穿いていた短パンの上からぺニスをサラリと撫でる。 たったそれだけの事で、俺の体は憐れなくらいに震えた。 俺はこんなに感じやすい体をしていただろうか...... 確認をするつもりで、そこに触れていた手を下着の中に突っ込む。 先端が布地に擦れたのか更に腰が小さく揺れ、突っ込んだ指先にはいとも簡単に熱を感じた。 思えば...当たり前かもしれない。 現場を離れた今もほぼ毎日のように充彦と抱き合っていて、こんな長い間誰からも触れられず、欲を吐き出す事もないなんてのは物心ついてから初めてだ。 それでもその事を辛いなんて思ってはいなかったはずだったのに...寂しさのせいでそこにチリッと火が灯る。 『あぁん...や、やめて......』 『やめてじゃないでしょ? ここはこんなに喜んでるのに...ほら、もう濡れてる』 彼女の下着の中に滑り込んだ充彦の指の動きを真似るように、つつっと根元から先端に向かって指先を滑らせる。 ......ああ、ほんとに...濡れてる... 押し出されてきた雫をチョンチョンと指の腹に付け、ゆっくりと形を成してきた傘の裏側へそれをヌルヌルと塗り広げた。 そのまま大きさを確認するようにぐるりと傘の周囲をなぞれば、呆れるほどの浅ましさでそこは更にググッと力と熱を持つ。 画面の中では、彼女が嘘か本当かわからないくらいにわざとらしい声を上げながら充彦の手を掴んで自ら奥へと導こうとしていた。 気持ちも体も彼女にシンクロしながら、それでもどうしようもなくイラッとする。 触るな...唇も指もチンコも、吐き出す息も漂わせる香りも...充彦の全部は俺の物だ...... 『何エッチな事してんの? そんなに俺が欲しかった?』 『あなたがこんな体にしたくせに...欲しかったの、ずっと触って欲しかったの!』 充彦の手が彼女の下着を荒々しく剥ぎ取る。 俺も短パンと下着を併せて脱ぎ捨てた。 ......そう、俺の体をこんな風にしたのは充彦のくせに...触って欲しいのに...早く触って抱き締めて貫いて欲しいのに...いつまで俺のこんな体を放っておくんだよ... シャツを捲り、口内でたっぷりと湿らせた指で胸の飾りを擽った。 どこを撫でてもどこに触れても、ピリピリと電流のような快感が走る。 今日の俺は...変だ。 胸の尖りをギュッと強めに摘まんでみれば、腰へと溜まっていく電流は更に強くなった。 クニクニとそこを捏ね摘まみ捻る動きが止められない。 もうしっかりと勃ち上がったぺニスを軽く握り、それをプルプルと小さく揺らす。 溢れる雫は止まらず、タラタラと竿を伝ってきたそれは俺の手をすぐに濡らした。 手のひらで先端をグリグリと強めに撫で、しっかりとヌメらせた指でグイと皮を根元へと手繰る。 腰にじわりと蓄えられた電流が一気に脳天まで駆け抜けた。 強烈な刺激に、思わず腰を突き上げるように体が反り上がる。 『ほんとならこのままブチ込みたいんだけどさ、さすがに会社じゃまずいだろ? 後からちゃんと、こんなの初めてって泣いちゃうくらいガンガンに突っ込んであげるから、今は俺の指を美味しく食べといて』 イヤイヤする彼女を宥めてるのか煽ってるのか、充彦の指が秘所の奥へと突き立てられ、いきなり激しく動き出す。 『やだ、指だけじゃやだ...入れて、入れてよぉ』 充彦の激しさに合わせながら、俺も自らを擦る手の動きを激しくしていく。 画面から聞こえる音に負けないくらい、俺の手の中がクチクチとイヤらしく粘る音を響かせた。 その音が俺の羞恥心と快感とを更に煽る。 煽られた体は更に蜜を溢れさせ、その蜜がますます粘着質な音を大きくさせ... 正気に戻る暇もなく俺のぺニスはガチガチに膨らみ、もう余る皮も皺も無くなっていた。 表面に浮き出る血管まで手のひらに感じ、もう限界が近いとわかる。 『お願いだからぁ、入れて! ねえ、お願い!』 ......入れてよ、充彦...突っ込んで揺さぶって、体がボロボロになるまで愛してよ... 「充彦ぉ......」 我慢できなくて、思わずその名前がポロリと口から溢れた。 途端に身体中が沸騰するように熱くなり、それだけでグググッと欲がせり上がってくる。 「充彦...充彦...寂しいよぉ...触ってよ...充彦がこんなにしたんだよぉ...責任取ってよぉ...充彦...充彦......」 彼女の嬌声が大きくなり、俺は固く目を閉じた。 乳首を弄る指も、ぺニスを強く握る手も、俺の頭の中で充彦の物に変わる。 足りない。 後ろを犯す圧倒的な力が足りない。 中から与えられる女としての快感と、外から与えられる男としての直接的な快感、両方が欲しい。 けれどその物足りなさを補って余るほど、今の俺の体は刺激に飢えていた。 竿を大きく早く扱きながら、人差し指の腹で雁首の裏側を擽る。 それぞれの指の力を強めていけば、体が強張るような、それでいて脱力していくような不思議な感覚が襲ってきた。 ......あ、くる... 手の中の熱が限界まで膨れ上がり、固く閉じた瞼の裏側にチラチラとフラッシュのような光を感じる。 背中が仰け反り腰をはしたなく突き上げれば、すぐにその瞬間が訪れた。 パンパンの水風船が弾けたように手の中の物が一気にプシュウと萎んでいく。 臍から下腹部、そしてぺニスを握りしめたままの手までが水風船の中身でべたべたに濡れている。 久々過ぎたせいか、俺を汚す欲は想像を遥かに超える量だった。 腹の上の物は『乗り切らない』とでも言うように脇腹からラグへとゆっくり伝い流れていく。 たった一度の行為では熱が収まらないのか、まだぺニスは十分な硬さを保ったままだった。 けれど彼女の嬌声がいつの間にか止み、次の展開へと場面が移った事でスーッと頭の中が冴えていく。 心地よく思えた倦怠感はただ不快な重怠さに変わり、快感の代わりに後悔と虚無感が押し寄せてくる。 「何やってんだ...俺......」 いくら寂しいからって、充彦の相手役に自分を投影して慰めるなんてバカみたいだ。 バカみたいなのはわかってるけど...そうせずにはいられなかった。 今の俺は、それくらい追い詰められてた。 一度止まったはずの涙がまた溢れてくる。 「充彦...充彦ぉ......」 「呼んだ?」 いきなり聞こえた声と同時にフワッと投げられたタオルが顔を覆う。 顔にかかったタオルをどける事もせず、ただ混乱した頭を落ち着かせようと必死に深呼吸してると、横たわったままの俺に近づいてくる気配。 その気配は俺の首もとへと膝をつき、顔の上のタオルをそっと取った。 「ただいま」 いつもと変わらない優しい顔で俺の目を覗き込み、手にしたタオルで腹辺りの汚れをそっと拭ってくれる。 「......みつ...ひこ...本物?」 「たぶん本物だと思うよ。予定よりずいぶん遅くなっちゃった...ごめんな」 なぜ連絡をくれなかったのか、せめて帰る時間くらい教えて欲しかった...そんな風に責める事もできるのに、今はただ充彦が目の前にいる事が嬉しい。 だけどそれ以上に、すっかり冷静になった頭がさっきまでの行為の愚かさを改めて思い出させ、恥ずかしくていたたまれなくなる。 「い、いつからいたのっ!?」 「あ~、そうだな...お前がディスクセットした頃?」 ......始まる前じゃないか! 「な、なんですぐに声かけてくんなかったんだよ!」 「......うん、悪い。最初はさ、すげえ寂しそうに横になってるのが見えて、罪悪感で声かけられなかったんだ。あ、別に向こうで悪い事してたって意味じゃないからな。向こうにいる間からさ、お前にはほんと申し訳ないと思ってたんだけど、別にメール読んでも普通だし、電話してくるってわけでもなかったから、お前は平気なんだろうって...勇輝は俺がいなくてもなんともないんだなって思ってたんだ。でも帰ってきてあの姿見たら、俺ってほんとにバカだなぁって改めて感じちゃってさ。俺に迷惑かけないように、俺の勉強の邪魔になんないようにってずっと平気なフリしてくれてたんだよな...んなの、当たり前だったんだよ。だって俺だってそうだったんだもん。平気なフリでもしてやきゃ、お前が恋しくて日本に逃げ帰りそうだったんだから。ほんと、ほったらかしにしてゴメン」 「い、いくら罪悪感とかなんとか言ったって...あんな事始める前に声かけろよ!」 途端に、優しいだけだったその顔がニヤリと意地の悪い笑顔に変わる。 スルスルと慣れた手付きで俺のシャツを脱がせると、わけもないって顔で俺を横抱きにして立ち上がった。 「俺がこんな体にしたんだからな、そこはちゃんと責任取らないと。つかさ、俺が恋しくてオナニー始めちゃってんの、止めるわけがないだろ? 最高に興奮したよ、俺の事思って乱れてる勇輝のエロい姿」 「ちょ、とにかく下ろせ」 「だ~め。航生に連絡して、俺ら5日間完全に休むって言っといたから。『こんなの初めて』って言わせるくらい目一杯可愛がってやるから、とりあえずまずは風呂行くぞ」 勝手過ぎる!とか、せめて帰りの連絡くらい入れろ!とか、いくらでも言えたと思う。 言っても誰にも文句は言われないはずだ。 だけど抱き上げられた俺の鼻先をあの焦がれて仕方なかった香りが擽れば、もう充彦がいるってだけで他はどうでもよくなってくる。 他の香りなんて欠片も混ざっていない、純粋に充彦だけが醸す物に、興奮と安心感が広がった。 「『こんなの初めて』より『いつも通りだ』って思わせてよ」 充彦の首に腕を回すと、俺はその胸に顔を押し付けて改めて大きく息を吸った。

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