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魅惑のマーメイド【航生×慎吾】
「見て、見て! これってさ、なんかめっちゃ可愛いない?」
台所で夕飯の食器を洗っていた俺の前に、何の前触れもなくいきなり現れた慎吾さん。
その姿はなぜか…パンツ一丁!?
あ、いや...これはそもそもパンツなんだろうか?
少なくとも俺が洗濯をするときに見た記憶には無いデザインと色だ。
腰骨辺りがギリギリ見えるか見えないかの極めて浅いデンジャラスな股上。
太いゴムベルトには、ポップというより少しサイケデリックな色合いの目が痛くなりそうな毒々しいカラーリング。
「それ、どうしたんですか?」
目のやり場に困るなぁ...なんてちょっと思って、とりあえず洗い物を再開する。
「前にな、ファンの人からもうててん。色んなとこが危なっかしすぎてなかなか着る機会なかってんけど、ほら、せっかく明日から沖縄で撮影やん? それで思い切ってこれ着てみることにしてん。めっちゃ可愛いやろ?」
ああ、そういえば明日からビデオの撮影で泊まりだったな...なんて思い出し、出していた水を止めて振り返った。
なるほど。
下着ではなくて水着だったわけか。
それも、下ろし立ての初出しと?
そりゃあ普段の洗濯で目にするわけもない。
しかし、慎吾さんはさっきから可愛い可愛いを連呼してるけど、これって可愛いっていうよりはエロいと思うんだけどなぁ。
なんせエロ筋は結構ガッツリ出てるし腰ベルトが太いせいでウエストは極端に括れて見えるし、ちょっとずれれば前の毛がチョロリと覗いてきそうだ。
あの股上の浅さじゃ、微妙にケツの割れ目辺りも窺えるんじゃなかろうか。
時々慎吾さんのセンスがわからなくなる。
「それで、明日の準備はもう終わったんですか?」
「うん、この水着入れたら終わり」
「ちゃんと日焼け止めも入ってますか? 肌が白いんですから、ちゃんと塗っとかないと大変な事になりますよ」
「一応入れたってぇ。せえけど、俺白いわりに赤うにならんとちゃんと黒なんねんで? ま、すぐに白に戻るけど。こっち帰ってくる頃には、航生くんとおんなじような色になってるかわかれへんな」
なんかちょっとドキッとする。
頭の中で、俺と同じくらい小麦色に灼けた肌の慎吾さんが俺に向かって微笑んだ。
それは今と同じ姿…上には何も着けず、下はエグイくらい派手で隠している布の面積がびっくりするほど小さいあの水着。
今はまだ白い肌に浮いて見えるそれも、浅黒くなった体にはよく似合うだろう。
俺を見ながら誘うように目を伏せ、僅かに腰のゴムベルトを下げて見せる姿を簡単に想像できてしまい少し焦る。
……いや、下の方が反応してしまいそうになったとか、そういうことでは…ないと…
嘘!
想像だけでムクッときました、ごめんなさい。
そんな俺の下半身事情なんて知ってか知らずかお構い無しか、慎吾さんが俺に向かってクルリと体を反転させてお尻を突き出してきた。
うん?
今?
ここで?
すっかり邪な事しか考えられなくなってる俺は、躊躇う事もなくその妙に丸いケツにそっと手を伸ばす。
「ほらぁ、可愛いやろ? ちゃんと見てる?」
目の前で、どうやら他意もなく俺に向けて突き出したケツを、それこそ『可愛く』フリフリする慎吾さん。
本人は単純に見てほしいだけで、今はそれ以外なんて望んじゃいないんだろうけど、俺にはそのう~んと先までおねだりしてるみたいに思える。
「ほら、ここ!」
俺がいつまでも『可愛い』の正体に気づいてないとわかったのか、慎吾さんはケツを振るのをやめて右のケツの真ん中辺りを指さした。
サイケデリックな色合いの中に、白いハートが一つ。
まさかそんな小さなハートのアップリケを可愛い可愛い言ってたのか?
それも、こんなえぐくてセクシーなデザインの水着に、このハートはイマイチ似合ってない気がする。
「そのハート…そんなに可愛いですか? てか、慎吾さんてハート柄好きでしたっけ?」
「ん? ほんまにちゃんと見てる? これ柄ちゃうで」
ゴムベルトの上から指を差し入れると…うわっ、穴から指出てきた!
「これな、ハートの形に生地を抜いてあんねん。せえからこのまんま日焼けしたらな、お尻は真っ白のまんまでこのハートだけ茶色になって残るんやで~。ほら、可愛いやろ?」
頭の中のさっきまでの小麦色の慎吾さんが、俺に背中を向けて水着を下していく。
欠片も日の光を浴びていない真っ白に輝くようなケツの右側に、まるでタトゥーか何かのようにくっきりと浮かび上がるハート模様。
これは…可愛いじゃなくて、やっぱりエロいだろ。
「んふっ、この水着見たら、武蔵も威もびっくりするやろうな。いっつもよりハッスルしたりして~」
……あれ?
今慎吾さん、何言った?
「武蔵さんと威さん?」
「そうやで? あれ、話してなかったっけ? あんな、正式にクイーンズガーデンとアムールが業務提携結んだんを記念して、まず第一弾にJUNKS復活!ってDVD出すことになってん。まあJUNKSと言えばリゾートでのアホアホエロエロシリーズやろ...って事で、今回は沖縄行くねん。ま、翔ちゃんは体調崩してるらしいんでお休みで、代わりにヒカリっていう俺が手取り足取り教えた子が入るんやけどな」
……えっと...もしかして俺、心が狭い?
俺より先に、ケツのこのハートマークを武蔵さんに見られるとか、ものすんごい嫌かもしれない。
「水着、他のに変えません?」
「なんで? これ似合えへん?」
さて、ここで本音を素直に言ってもいいものだろうか。
俺のガキみたいなヤキモチなんて引かれない?
それでもじぃっと俺を見てくる慎吾さんの目は穏やかで、尚且つしっかりと俺の本音を探ろうとしている。
たぶん口からでまかせを言ったところですぐにバレてしまうんだろう。
もっとも、それらしい言い訳やでまかせなんて思い浮かびもしないんだけど。
「武蔵さん達に、お尻のハート見られたくない」
「……それ、本気で言うてる? だってアイツらやで? こんなハートどころか、ケツの穴までしっかり見られてんねんで?」
「それでもなんか嫌なんです…俺も見てない物を、俺より先にあの人達がまた見るのが嫌なんです。いっつもなんでもJUNKSの皆さんは俺より先だから…俺より先に慎吾さんに会って俺より先にセックスして、俺より先に信頼関係築いて」
「せえけど、航生くんよりも先に恋愛関係になった人間なんかいてへんで?」
「当たり前です、先も後も俺以外の恋愛関係なんて許しません。いや、そういうのもちゃんとわかってるんですけど…でもやっぱり、せめてこれからは何でも俺が慎吾さんの一番でいたいんです」
「そっか……わかった」
慎吾さんはニコッと笑い、その水着を脱ぎ捨てる。
「これ、今回は着んとく。今度二人で海に行ける機会できたら、そのときに着るわ。その代わり...日に灼けたらハートになるはずやった所に、航生くんのハートマーク付けてくれる?」
「俺の…ですか?」
「そう。そんなん武蔵にも威にもされたことあれへんからさ、航生くんが『俺のもんや』って印にここにハート付けといてよ」
「綺麗なハートにできるかな...…」
「綺麗やなくてかめへん。俺が航生くんの物なんやってわかったらええだけやん?」
まだシンクの中にはお茶碗とお箸が残ってる。
けれど俺の手を引いて寝室に向かう慎吾さんに黙ってついていく。
俺の頭の中にはもう小麦色の慎吾さんの姿はなく、目の前の真っ白な裸しか目に入らなかった。
**********
翌日慎吾さんは、以前からよく着ていたというターコイズの水着をかばんにいれて2泊の撮影旅行へと出発した。
右の尻たぶには、赤黒い鬱血でできたハートをしっかりと付けて。
その日の夜には酔った武蔵さんから猛抗議の電話が来たけれど、別にそんなものは痛くも痒くもない。
俺はその酔っ払いを軽くいなしながら手元の『宮古島』と書かれたパンフレットを閉じた。
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