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小悪魔マーメイドとケルベロス【1】
魅惑のマーメイドの翌日のお話です
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待ち合わせは那覇空港。
俺らは大阪から、あいつは東京からと別々の飛行機で、先に着いた俺らは待合室で東京組の到着を待った。
めっちゃ久々の共演。
今回の話を聞いてからは異様にテンション上がってたと思う。
会社が変わってもうた事で、正直もうアイツとの共演なんて諦めてた。
アイツも当然、俺らとは2度と仕事をせえへん覚悟で東京に行ったはずや。
ところがいつの間にそんな話を進めてたんか、うちとあいつの東京の会社が業務提携することになってて...今回はこうして晴れてJUNKS復活なんてことになった。
勿論アイツに今最愛の恋人がおるんは知ってる。
そいつは俺らが考えてたよりもずっとエエ男で、アイツの事をほんまに大切にしてるんやってのはようわかってるし、別に今更俺の方に振り向かせたいなんて考えてるわけやない。
横恋慕して修羅場...とかゴメンや。
絶対に手に入るわけもない人間のことをいつまでも追っかけててもしゃあないしな。
まあ実は今、好きってのとは違うけど、やけに気になってしゃあない人間もおったりするし。
ただ、なんぼアイツが人のモンになっても俺にちょっと気になる人間ができても、仕事の面において俺とアイツが最高の相棒やったってのは変われへんし、俺には今もその自負がある。
そんな一番のバディとの久々の共演って事になりゃ、テンション下げろってのも無理な話や。
今回はアスカ…やないわ、慎吾とうちのヒカリがネコ、俺と威がタチオンリーってことで、俺はちょっと空回り気味か?ってくらい気合いが入ってた。
今回の撮影はアムールが主体で行われることになってる。
いつものように撮影は大原さん、メイクにサブカメラ、衣装や小物はジュディさんが担当。
東京からは慎吾に同行してクイーンズガーデンの木崎さんも沖縄入りするらしい。
レンタカーの準備の為に先に外に向かった大原さんの代わりに、今はジュディさんがカメラを回して待機中の俺らを映してた。
「おおっ、久しぶり~」
背中にいきなり感じる熱。
そこそこ強い力で、ギュウと抱きしめられる。
散々嗅ぎ慣れてた久々の甘い香りに、押し込めたはずの思いがちょっとだけ胸の奥でキュンて痛んだ。
「おお、久しぶり~。相変わらず元気そうで。今は慎吾って呼ばなアカンねやんな? なんやまだ慣れやな。うっかりアスカて呼んだらゴメンやで?」
フワフワと笑う威は、特になんて気持ちも抱えてなさそうや。
まだちょっと引きずってんのは俺だけなんかな......
そらそうか。
威は威で、とっくに新しい思いを真っ直ぐ見つめてるんやし。
「ヒカリ~、元気やったか? ああ、相変わらず可愛いなぁ...どう、少しは上手に感じられるようになった? 武蔵はちゃんと優しいにしてくれてる? 今はずーっと武蔵とコンビなんやろ?」
慎吾からいきなりの質問攻撃にあったヒカリは、なんでかちょっと顔を赤らめながら小さく頷いてそのまま俯いてもうた。
ああーっ、もうっ!
そんな反応したら俺のが恥ずかしいやないか。
せえけど慎吾は別にからかうような素振りも見せるわけやなく、ただ優しい顔で小さいヒカリの頭を撫でた。
「はいはい、感動の再会の挨拶中のところ悪いんだけど、これからすぐに感動の再会のセックスだわよ~」
俺の背中から慎吾を引き剥がしたジュディさんがシッシッと手を振る。
俺らにはさっさと社長の待ってる車に向かえ...みたいな仕草を見せるくせに、自分はめっちゃ嬉しそうな顔して慎吾をぎゅうぎゅう抱き締めてた。
「ほんまに、アスカって呼ばれへんのが不思議な気分やわ...なんも変わってへん。あ、でもものすごい幸せそうかな...うん、前よりも綺麗で色っぽなった。そんなんやったら、もうタチはできひんのちゃう?」
「何言うてんの。相変わらずタチネコ両方バリバリやで。ていうかね、今はネコオンリーでの撮影はあんまり入れてないねん。プライベートのセックスで満足し過ぎてるからなんかな...どうしてもカメラに映ってる俺の顔が嘘っぽうに見えてもうて」
「あら、そしたら今日の設定変えてもらおか? あんたら3人でヒカリ責め倒すとか」
「そんなん無理に決まってるやろ!」
冗談てわかってるはずやのに、思わずジュディさんに噛みつく。
「コイツ体力あれへんし、芝居やからって自分でコントロールできへんねんで? すぐに本気で感じてまうから普段でも連続で撮影できへんのに、俺ら3人同時になんて相手できるわけないやろ!」
「お前、何ムキになってんの?」
ちょっとからかうような口調で、ほんでも気持ち悪いくらいに優しい顔で慎吾が俺を見る。
なんやバツが悪なって、俺はフイッとそっぽを向いた。
「そっかぁ、ヒカリはちゃ~んと感じられるようになってんな。良かった良かった」
「せえけどな、ヒカリは基本武蔵以外はあかな。武蔵相手の時とわえが相手してる時とでは全然顔が違うんやして」
「あら、威はまだマシやって。翔ちゃんとかマサトなんかが相手の時は、最後までチンチンがしょんぼりしたまんまやもん。触っても舐めても全然元気になれへんからね、もう他の人やと撮影できへんの」
「ヒカリは目一杯優しいにしてもうて、まず気持ちから入らなちゃんとエッチできへんもんなぁ...翔ちゃんとか、結構激しいやん? 性格そのまんまのセックスするもんね。そうか...武蔵とのエッチはほんまに気持ちエエんや? 武蔵はそんだけヒカリに優しいしてくれんねんな?」
恥ずかしそうに、それでもしっかりと頷くヒカリの横顔がチラッと見えてますます恥ずかしなってくる。
俺はもうそっちに構う事もなしに自分のと、隣に置いてあった無駄にでっかいカバンを肩に掛けて外に向かって歩き出した。
「ジュディさん、今回は武蔵と威が相手役やからね、俺も安心してネコに専念するつもりで来てるから大丈夫。だって武蔵やで? カメラの前で、俺が一番イヤらしい顔作れるようにしてくれる相手やで? 久しぶりに最高にエロ可愛いニャンコちゃん見せたげるよ」
振り返りはせんかったけど、慎吾のそんな言葉に思わず自分の口許が弛むんがわかった。
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