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小悪魔マーメイドとケルベロス【2】
俺らが泊まるのは普通のリゾートホテルなんやけど、これから撮影の為に向かうんは個人所有のプール付き別荘。
そりゃね、そこそこオンシーズンのリゾートホテルのあっちこっちで男同士がガッツリ繋がってフンフン言うてる姿なんか、撮影できるわけあれへんし。
んで、俺らが沖縄でリゾート物を撮影する時は、どういう関係なんかはわかれへん社長の知り合いの持ち物っていうその別荘を毎回使わせてもうてる。
ちなみに、明日出してもらうクルーザーもその人個人のモンらしい。
しかしすごい人やなぁ...なんぼ後からちゃーんと掃除してピカピカにしてるとはいえ、別荘もクルーザーも『セックスの為』だけに貸してくれんねんから。
まさか、用途まで話してへんのかな?
いつも通り、ビデオ用のちょっと軽い感じのアホアホトークを撮ってるうちに、車はおなじみのデカイ別荘にそのまんま入っていった。
ほんまにここは日本なんか?
フェンス越しに見えるキラキラ光る波間と少しだけ傾き始めた太陽、頭上で静かに揺れるヤシの木という光景に、自分が今どこにおるんかを忘れそうになる。
今日は夕方から夜までプールサイドで俺と慎吾、威とヒカリで並んで撮ることになってた。
細かいセッティングは社長とジュディさん、それに木崎さんがやってくれるとしても、傾きだした太陽がオレンジに染まるんは案外早い。
とりあえずデッキチェアやらテーブルを並べるんだけは若い俺らみんなでダッシュで手伝い、そこから急いで自分らの準備に入る事になった。
慎吾とヒカリは体の中を丁寧に洗浄しなあかんもんな...って、あれ?
ヒカリ、今日は一人でちゃんと洗えるんかな?
イチジクさん、借りてこんでもいけるんやろうか?
ちょっとソワソワしてしまう俺の事なんかお構い無しで、慎吾はヒカリの肩を抱いてシャワールームに入ってもうた。
「武蔵、どうしたんな? 忘れモンでもしたんか?」
「あ、いや...ほら、ヒカリってシャワ浣下手くそやろ? ちゃんとできるんかなぁと思うて。俺、手伝いに行かんでも大丈夫かな?」
「何を言うちゃあんのよ。なんぼヒカリが洗浄下手くそでも、アスカ...やないわ、慎吾と今一緒に行ったんやろ? なんも心配する必要無いわしょ。全部慎吾がやってくれら。わえらはわえらで先に着替えて待ってたらエエんやして」
「いや、せえけどさぁ......」
「なんや武蔵って...ヒカリの事になったらえらい過保護やなぁ。さっきも車乗んのに当たり前みたいにヒカリの荷物持っちゃあったしよ」
「かっ、過保護ってなんや、過保護って! ヒカリは言うたら慎吾からの大事な預り物みたいなモンで...に、荷物は力あれへんのにアイツがアホみたいにデカイかばん持って来てるからやし。お前も空港来たときのアイツのヨロヨロぶり見たやろ。洗浄かてやなぁ、あんまり下手過ぎて撮影遅れた事もあったから......」
「はいはいはいはい、わかったわかった。ヒカリがドン臭すぎて見てられへなんだだけやって言いたいんやな? まあ、ほいたら今はほんでエエわいしょ。とにかくわえらはさっさと着替えて、他にプールの方の手伝いいらんか確認しやな」
俺はごく当たり前の事を言うただけやのに、いっつもフワフワ笑うてる威が珍しくニヤニヤしてる。
なんやその顔がメッチャ腹立って、俺は威に背中を向けてさっさと服を脱ぐと、黙ったまま向かいにあるゲスト用のシャワールームへと向かった。
**********
明日のクルーザーでのセックスは、ある意味ゲイビではお約束の一つみたいになってる白の競泳用水着やけど、今日はちょっとロマンチックにしたいからって言われて、みんな私物を持ち込む事になってた。
ちなみに白のビキニパンツを穿かされる理由は言わずもがな、『濡れたらしっかり中身が透けて見える』から。
リアルに肌の色も毛ぇの生え具合も大きさもクッキリハッキリわかるけど、ちゃんと布を通してるからモロ出しやない...それがモザイク無しのギリギリってところらしい。
まあ、あまりにもスケスケ過ぎたら水着の上からでもモザイク指示が入って台無しになったりもするけど。
明日は太陽の下、それこそスポーツとかレジャーみたいなセックスすんのがわかってるから、今日はそれぞれが目一杯甘い雰囲気を作る事になってる。
せえから一応、俺らなりに一番のお気に入り水着を持ってくる事になってた。
大好きな相手とのリゾートデート...的な?
勝負水着...的な?
威はいかにも元アスリートって体型やから、シンプルに黒一色のバリバリのビキニ。
ゴツいケツとかパツパツの太股が強調されてて、めっちゃ似合うてると思う。
俺は今日の為に、赤ベースの幾何学模様のショートボクサータイプを穿いてた。
実はこいつがなかなかの曲者で、俺の『俺』がシャキーンなんて元気になってもうたら、すぐに上から頭が出てまうくらいのローライズやったりする。
こんな撮影ならそれこそ美味しい展開やけど、プライベートでは絶対に着られへん代物やった。
それもこれも、『今回はファンから貰った超可愛いおニューの水着持ってくよ~』なんて、慎吾からメールが来たせい。
そんなん、慎吾が今日の為に新品穿くって言うてんのに、俺が使い古しとか失礼千万ちゃう?
慎吾の水着姿に、俺は正直ワクワクムラムラしまくりやった。
「ごめん、お待たせ~」
デッキチェアに腰をかけてた俺らにかけられたのは慎吾の声。
ごたいめ~んとばかりに振り向いて...俺は慎吾の姿に二度三度と瞬きをした。
「あー、ん? いや、でも......ん?」
「どしたん?」
「えっと...な、今日さらの水着で来るて言うてたやんな? でも俺、その水着見たことあるような気が......」
「あー、ごめんごめん。ちょっと事情があって、予定してた水着着られへん事になってん」
うっそ~ん、マジか!?
メッチャ可愛いてちょっとエロいって聞いてたから、俺相当楽しみにしてたのにぃぃぃ。
そんな俺の気持ちなんか屁とも思わん様子で、慎吾は社長にあっさり準備オーケーの合図を出した。
それもそうか。
いつまでもたかが水着にどうのこうの言うててもしゃあないよな。
もう太陽も沈み始めてるんやし、早よ撮影始めてしまわんと。
水着がなんや!
こんなもん、ちょっとキスだけしたらすぐに脱がせてまうもんやないかい!
中身は慎吾や、間違いない!
俺は一回社長の方を確認して立ち上がると慎吾の手を取った。
その腕を引き寄せ抱き締め、しっかりと唇を合わせながら慎吾をデッキチェアへとゆっくりと横たえる。
重ねた唇をゆっくりと離し、しばらく見つめ合ったまま吸い付くような肌の表面に指を滑らせた。
この感触や...相変わらずキメの細かい肌は、俺が知ってた頃よりもずいぶんと敏感になってるらしい。
スベスベとしていたはずのそこは、すぐにプツプツと粟立った。
首筋をゆっくりと舐め上げながら、慎吾の体をそっとひっくり返す。
背中もやっぱり変わらず綺麗なまんま。
せえけど、あのアホみたいに綺麗な筋肉の持ち主と一緒に筋トレでも始めたんか、以前よりも肩や腰にはしっかりとした張りがあった。
そのうっすらと浮かぶ背中の筋肉に唇を滑らせながら慎吾の水着に指をかける。
俺が何をしたいかわかったらしい慎吾は、ゆったりと自ら腰を上げた。
あの輝くほどに艶やかで、男にしては丸みのあるケツを露にしようと、俺は引っ掛けた指先をぐいと下に下ろす。
ああ、変わらない...なんて綺麗なケツ...なんも変わってない...変わって...ない...変わって...ない?
変わってないことあるかーーーっ!
「ちょ、ちょっと社長、カメラ止めて」
俺の中のワクワクムラムラが、一気にプシューッと音を立てて萎んでいく。
「し、慎吾...これ、何?」
ツルッツルのケツの右側。
ちょうど尻たぶの真ん中辺りに、赤黒いハートみたいな痣がある。
いやいや、痣ちゃうしっ!
よう見てみたら歯形みたいなもんも微かに残ってるし、その痣自体も明らかに吸い上げられた痕にしか見えへん見事な鬱血っぷり。
.......歯形付きのキスマークやないか!
「あはっ、気ぃ付いた? なんやタトゥーみたいで可愛いやろ?」
萎えた...完全に萎えた......
つか、撮影やってのに、あの番犬野郎はなんて事してくれんねん!
今すぐここに呼んで、あのワンコに土下座の一つでもさせたい気分になる。
せえけど...慎吾がちょっと顔を赤らめながらポソッと言った。
「なんかさ、これって航生くんの所有印みたいやない? 俺って航生くんのもんなんやなぁって思うたら...メッチャ幸せやねん」
......なんやねん、その顔。
俺、お前のそんな幸せそうな顔、見たこと無いし。
てか、そんな顔...誰にもさせた事無いんやろうな......
「社長! 悪いけど、相手役交代! ケツにハート型のキスマーク付けてるアホとセックスなんかしてられへんわ。萎える萎える」
社長は一瞬不満そうな顔したけど、それでも『わからんでもない』って思うてくれたんか、すぐにヒカリと慎吾の立ち位置を替えてくれた。
いっつもみたいにヒカリを優しく抱き締めて、フワフワ頭を撫でながら何回も触れるだけのキスをする。
そのままデッキチェアに横にすると、すぐにその華奢な体を俯せにした。
それこそ新品らしいエメラルドグリーンのビキニをツルンと下ろす。
現れたのは、慎吾に負けてへんくらいの真っ白いケツ。
なんでか俺はそのケツの右側に、思いきり吸い付いていた。
**********
『もしもし、慎吾さん?』
「やかましいわっ! 何が慎吾さん?じゃ、ボケッ」
『えっと...もしかして武蔵さんですか?』
「もしかせんでも武蔵様じゃ、ボケッ」
『あ、お疲れさまです。慎吾さんがどうかしましたか?』
「どうかもなんもあるかい! 酒飲んで寝てもうたわ! お前なぁ、撮影前にあんなキスマーク付けるとか、どういうこっちゃ!」
『ああ、あれですか...すいません、慎吾さんがどうしても付けて欲しいって言うもんで。ちゃんとハートになってましたか?』
「うん、なってたで...って、ちがーう! だーかーらー、そもそもあんなもん撮影前に付けるとか......」
『虫除けですよ、あれは俺の物だっていう。その荒れっぷりからして、武蔵さん見事に萎えたでしょ?』
「ふ、ふざけるなーっ! な、萎えるどころか...萎えるどころか......」
『あれ? まさか対抗して左におんなじように付けました?』
「うっさい、ボケッ! 右側の...おんなじ所に付けてもうたやないか!」
『上書きのつもりですか? まあそれならそれで、また俺が上書きするんでいいですけど。とりあえず今そこに慎吾さんいないなら、俺忙しいんで電話切りますね。明日は日焼け止め忘れないように、慎吾さんに伝えておいてください』
勝手に切られた電話。
受話器を握りしめたまま、俺はしばし茫然とする。
牽制の為に地獄の番犬がわざとらしく付けた噛み痕は、牽制するどころかひどく心をざわめかせ煽り...俺は生まれて初めて他人に自分の所有の証を付けていた。
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