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お題/同期
~晟 × 大樹 ~
入学式の日から気になってた。
気になってたのは俺だけじゃない筈…
黒木蹴人。
とにかく目立つ奴だった。
アッシュベージュに染まった特徴的な猫っ毛のショートヘア。
華奢めの美人系で、最初はただチャラいだけだと思ってた。
でも、実際は真逆だった。
講義は最前列で誰よりも真剣に受けてるし、成績も優秀。
性格は真面目で、"黙れ" が口癖。
目立つわりに、あまり人とつるまない。
つるまないけど、100人に聞いたら100人がクロを友達だと言って、いい奴だと答えると思う。
クロはそれとの距離の取り方が上手い。
仲良くはするけど、一定の距離は保つ。
奥には絶対に踏み込ませない。
それを相手に気づかせないようにやってるんだから凄い。
問題なのは、そういう意味でフラフラ遊び歩いてる事くらい。
そんなギャップが激しいクロに知らず知らず惹かれてた。
クロと呼び始めたのもその頃からだ。
特別…
ただ俺だけの特別が欲しかった。
それだけ…
「麻倉大樹。」
「なんだよ、晟。つか何故フルネーム?…」
「お前が辛気臭い顔してるから声を掛けてやっただけだろ。」
「お節介。今は慰められるより一人で居たいんだよ。」
風羽晟 。
大学の同期で一つ年上だ。
「ダメだ。そういう時に一人で居たって何のプラスにもならないぞ。」
「…まぁ、確かに。」
「大樹が元気ない時は、大体クロチンコの事だろ。」
「クロチンコって…」
俺が軽く笑って見せると晟の顔は逆に真顔になった。
「別に笑わせようと思って言ったわけじゃねぇけど…」
「…」
気まずい…
その原因は、一ヶ月前に晟に告白された事にある。
それ以来、俺は晟を避けてる。
こうして話すのはかなり久しぶりだ。
晟は大切な友だちで、下手に返事して嫌われたくない。
…失いたくない。
だから、きちんと考えたい。
クロの事もフラれて暫くは考えてたけど、それよりも今は、晟への返事の事の方が俺を悩ませてる。
「大樹、今日予定は?」
「…ごめん、今日は無理…」
「どうせ嘘だろ?今日は拒否っても拉致るからな。」
「強引…」
大樹に告白されたのは、クロにフラれた次の日だ。
俺はまだクロで頭がいっぱいで、晟どころじゃなかった。
驚きすぎてその場から逃げた。
今は凄く後悔してる。
どんな思いで俺に打ち明けてくれたのか…
それはクロに告白したばかりの俺が一番よく分かっているつもりだから…
「…また逃げられたら、堪らないからな。」
「…分かった。」
強引にキスした日、目が合った男が居た。
その男は静けさに隠された酷い嫉妬の目で俺を見ていた。
あの人がクロと関係があったかまでは分からないけど、あの目は俺に向いてた。
俺はあの目をいまだに忘れられない。
今の晟は、あの人と同じ目をしてる。
それと同じ目でクロを見てる。
最近、俺はクロよりも晟を見る事が多くなった。
だから、晟の変化にも敏感に反応する。
俺の気も知らないで、晟はいつもみたいに俺の隣に座って講義を受けた。
俺は講義どころじゃない。
完璧に晟を意識してる。
最前列には今日もクロが居る。
なのに、俺の頭は晟でいっぱいだ。
クロを見つめながら頭に過るのは晟の事ばかり…
俺は、酷い奴だ。
「…いき…おい、大樹。」
「…あ、どうした?」
「どうした?じゃねぇって。講義終わったぞ。」
「マジ?…全然気づかなかった。」
周りを見渡すと、もう講堂には俺と晟しか居なかった。
「…お前……」
「…なに?」
「そんなに黒木がいいのかよ…」
「な、なに言っ…」
「もう一ヶ月だぞ!そんなに引きずる程黒木がいいのかよ!!」
俺の言葉を晟が遮った。
「な、違っ…」
「違わねぇだろッ!」
晟の大きな声が講堂に響いた。
その言葉とともに、長く繋がった椅子に背中を打ち付けて組み敷かれた。
「痛ッ…」
「…違わねぇだろ、大樹…」
次に聞いた晟の声は弱々しかった。
晟の顔は悲しそうに歪んでいた。
俺が晟をこんな顔にさせてる…
「晟…」
「なんでそんな辛そうにすんだよ…。俺にこうされんのがそんなに嫌かよ。…もういい…」
「え?…」
「…疲れた…お前の事思ってんの、もう…疲れた…」
晟が俺から離れて乱れた前髪を掻き上げながら言った。
意味が分からない…
疲れたって…
「晟、待っ…」
「入学した時からずっとだぞ?…黒木を見てる大樹を俺はずっと見てきた。フラれたって言う大樹の弱みに付け込んでやっとの思いで告白したのに逃げられるし、一ヶ月も返事待たせておきながら俺の前で黒木の事見ながら溜息つくし…」
「だから違っ…」
「もう…いくらお前が好きだからって、俺もいい加減疲れた…」
「晟、聞けって…」
「嫌だ!お前にフラれるくらいなら、フラれる前に諦めた方がマシだ!!」
捨て台詞のように言うと、晟は俺を一人残して出て行った。
「勝手にフラれた気になってるなよ…馬鹿…、晟の馬鹿…」
晟が触った部分が熱い…
晟の力強さがまだ身体に残ってる。
入学した時からずっと俺を見てたなんて初耳だ。
全然気付かなかった。
俺がクロを思ってたように、晟も俺を…
ずっと俺を…
「ごめん…晟…気付かなくて、ごめん…」
晟に言いたいのに、もう此処に晟は居ない。
告白された日から、頭の中は晟でいっぱいだったって伝えたい。
クロよりも晟の事で悩んでた事…
クロの背中を見て溜息ついてたのは、ずっと思っていたクロにフラれたのにあまり引きずらなかった自分に疑問を抱いていたからだって事…
クロへの気持ちを晟にすり替えてるんじゃないかって不安だった。
俺は、つい一ヶ月前までクロが好きで…
なのに今は晟の事ばかり考えてる。
俺が晟を好きになってたとしても、説得力がなさすぎる。
晟を失いたくない…
晟に側に居てほしい…
晟をもっと知りたい…
俺は、いてもたってもいられなくなって晟を追った。
まだそう遠くには行ってない筈だ。
走って、とにかく夢中で走って晟の背中を見つけた。
そして無言のまま後ろから晟の腕を掴んだ。
「のわっ!」
「…は、ぁ…はぁ、ッ…じょ…、行くなよ…」
「…大樹…」
「は…ぁ、ッはぁ…俺を、置いて行くなよ…」
「走って来たのか?…」
「…はぁ、は…ぁ……あぁ、走って…きた…ッ…」
「声、エッロ…」
「は、ぁ…バカッ…茶化すなよ…」
「仕方ないだろ。マジで、エロいんだから。」
晟の腕を掴んだまま呼吸が整うのを待った。
「…晟…」
「ん?…」
「…俺、男だぞ?」
「分かってる。」
「可愛いわけでも、小さいわけでも、華奢なわけでもない…」
「あぁ、分かってる。」
「…説得力ないかもしれないけど…晟がそう思ってくれたみたいに…俺も…晟の内側に行きたいって思っ…ッんン!」
振り返った晟に抱き寄せられてキスをされた。
あまりに唐突で驚いた。
廊下の壁際に追いやられて舌を絡ませながら何度もキスをされた。
いつ誰が通るか分からない様な廊下で…
なんていうか、大胆だ。
まぁ、俺も人の事言えないか…
細い糸を引きながら唇が離れた。
「大樹…お前、ちゃんと可愛いからな?」
「バカ、可愛いわけないだろ…」
「俺にはそう見えてる。」
「どんなフィルターだよ…馬鹿…」
「…言っとくが、余所見は許さないからな。俺は嫉妬深いから、下手したら監禁とかするかもしれないし、それはそれは酷いもんだ。」
「恐ろしいな…」
「嫌がっても離してなんか、やらねぇから…」
「あぁ、ちゃんと分かってるよ…」
俺の為にあんな目をしてくれるような奴は、この先晟くらいだと思う。
いちいち確認なんかしなくたって、あの目だけで十分だ。
「…大樹…好きだ…」
「…」
「おい、こら、黙んなって。」
「…今言ったって説得力ないから…」
「言え…説得力とか関係ねぇよ。ただ、俺が聞きたいだけだ。」
「…」
「いい加減、俺を安心させろ…」
「………好きだ…多分…」
「多分って…まぁ、今は許す。自信持って俺を好きになった時にちゃんと聞かせろよ?」
「あぁ…」
俺はこの先、晟と思い思われる恋愛をするんだと思う。
片思いに疲れた俺と晟の…
人生で一番凄い大恋愛になる予感がした。
- end -
告白すら許されなかった大樹くんが不憫で。
沢山束縛されたらいいと思います。
どうかお幸せに。
みつき。
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